色彩
■ 9.子の成長は早い


『我らは貴方に感謝いたします。そして、朽木家の者として、一個人として、お願い申し上げる。・・・どうか、どうか茶羅を、よろしくお願いいたします。あの子と共に歩み、あの子と共に笑っていることを、朽木家一同願っております。貴方方の歩む道が、光に満ちたものであるように。』


「・・・はい。」
燿は青藍の言葉を噛みしめるように頷く。
その頷きと、瞳の強さを見て取って、三人は内心苦笑する。
この三人を前にしてもそんな瞳をするのか、と。
彼の芯の強さを見せつけられた気がして、三人は、敵わぬと悟る。


『・・・父上。』
「なんだ?」
『あれを。橙晴もいいね?』
「はい。」


「・・・そうだな。これでは、渡す他あるまい。」
白哉はそう苦笑して、袖の中から箱を取り出す。
そして、その箱のふたを開けた。


中から出てきたのは四つの耳飾り。
空色、茶色、琥珀色、蜂蜜色の小さな丸い玉が、光を反射してきらりと光った。
玉の内部には、羽や翼をモチーフとした模様が金で描かれている。
華美さはないが、温かみのある耳飾りだ。


白哉は琥珀色と蜂蜜色の二つを手に取ると、燿に近付く。
吊るされた玉がゆらり、と揺れて、再び光を反射する。
白哉はそれを慎重に燿の両耳に取り付けた。


「・・・そなたらの空がどこまでも遠く、そなたらの翼がどこまでも強くあるように。その羽がそなたらを繋ぎ、そうして作られた繋がりが、多くの者の耳に届き、幸せをもたらすように、とのことだ。・・・安曇と十五夜の爺もそなたらを祝っているのだ。」


「父上ったら、素直じゃないですねぇ。そう言うものを作れと注文を付けたのは父上なのに。」
『ふふ。それが父上のいい所でしょう。』
そう言って橙晴と青藍はくすくすと笑う。


「ありがとうございます。大切に致します。」
「・・・あぁ。」
燿に微笑まれて、白哉は気まずげに返事をする。


『ふふ。これから燿さんは、僕らの家族です。不甲斐ない義兄ですが、どうぞよろしく。』
「僕は茶羅の味方ですので、夫婦げんかの際、僕を当てにはしないでくださいね。」
「茶羅は朽木家から出て行くが、私の娘であることに変わりはない。覚悟しておくことだな。」


「あはは。はい。よろしくお願いします、お義父様、お義兄様。」
『ふは。いつも通りでいいですよ。』
「あ、やっぱり?まぁでも、家族になったのだから、いい加減俺のことを呼び捨てにしてくれるかな。青藍君も橙晴君も、何で敬語なの?」


『「蓮のお兄さんだから?」』
二人に首を傾げながら言われて、燿は苦笑する。
「なるほど。君たちの中では、蓮の方が、優先順位が高いということだね。」
「それは当然ですよ。ねぇ、兄様?」
『そうだね。だって、ねぇ?』


『「燿さんは茶羅を攫って行くのだもの。」』
「・・・うん。そうだね。つまり、俺は君たちの宝物を奪って行く悪人ということだね。」
『「まぁ、そういうことです。」』
二人に頷かれて、燿は苦笑するしかない。


『・・・まぁでも、今日から燿さんは僕らの義弟ですし。敬語もさん付けもいらないか。』
「そうですね。」
『ということで・・・。』
『「よろしく、燿。」』
「あはは。よろしく。」


楽しげな三人を、白哉は静かに見つめる。
茶羅が結婚相手を連れて来たら、反対する気であったのに、こうも簡単に頷くことになるとは。


そう思う半面、今朝見た茶羅の笑顔に、これでいいと納得している自分が居るのだ。
そして、茶羅を攫って行く男は、全てを知りながら、全てを受け止めると、そんな覚悟を決めているのだ。
・・・本当に、子の成長は早いものだ。


『さぁ、燿。おめかしした茶羅を見に行ってあげて。僕らは燿の後から見に行くよ。』
「うん。それじゃ、また後で。」
「まだ、手を出すには早いんだからね?夜までお預けです。」
「あはは。はいはい。では、白哉様。俺は一度、これで失礼します。」
そう言って出て行く燿を、白哉は穏やかに見送ったのだった。

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