色彩
■ 8.即答

二日後。
茶羅と燿の祝言の日である。
朽木家、周防家、南雲家の面々は、深夜、闇に乗じて移動したため、朽木邸にいた。
漣家、加賀美家、それから浮竹、京楽、卯ノ花もこっそりと朽木邸に足を踏み入れる。
それぞれが準備に追われ、邸の中は慌ただしい。


その慌ただしい様子とは裏腹に、静まり返っている部屋が一つ。
そこに居るのは、青藍、橙晴、白哉、それから燿である。
着替えを終えた燿の前に、突然白哉が現れ、続いて現れた青藍と橙晴が問答無用で彼を近くの空き部屋に引きずり込んだのである。


目を白黒させながらも、燿は促されるままに、そこに座った。
それに続いて三人も腰を下ろす。
そして三人はため息を吐いた。


「・・・随分と、深い、溜め息ですね・・・?」
燿は戸惑いながらもそう言葉を発する。
「それはそうですよ。」
「そうだな。」
『えぇ。そうですね。』
三人に頷かれて、燿はますます訳が分からない。


「・・・どうして、今日になってしまったのでしょうね。」
『それは婚約を公表してから太陽が三回沈んで三回登ってきたからだよ、橙晴。』
「そうだな。時の流れとは早いものだ。」
『えぇ。残酷なほどに。』
三人は再びため息を吐いた。


「燿さん。今日が、祝言です。」
橙晴はなぜか落ち込んだ様子だ。
「そ、そうだね?」


「茶羅は、今日から、朽木家の者では、なくなる。」
白哉は苦々しげに言う。
「そ、れは、はい。そうです。」


『つまり、今日から茶羅は燿さんのもの。』
青藍は泣きそうである。
「うん・・・?」


『「「納得がいかない。」」』
「えぇ・・・。そんな・・・。今更そんなことを言います・・・?」
三者三様の表情で、声を揃えながらそう言われて、燿は情けない顔をする。


「別に燿さんが相手だからどうこうという訳じゃないんですよ。」
『そうそう。茶羅がうきうきしているから、兄としてはこう、複雑なのです。』
「私がどれほど複雑か、燿には解らぬのだろうな。」
三人の言葉に、燿は思わず苦笑する。


なるほど。
要するに、茶羅が居なくなることが寂しいのか。
『そうですよ、寂しいんですよ。』
心を読まれたように青藍に言われて、燿はどきりとする。


「当たり前じゃないですか。ずっと僕らが大切に守ってきたのに。」
『僕らの可愛い姫なのに。』
「私の可愛い娘であるのに。」


『「「何故他の男の元に・・・。」」』
「いや、その、申し訳、ありません・・・?」
またもや盛大な溜め息を吐かれて、燿は思わず謝罪を口にする。


『・・・なんて。今更言っても仕方ありませんね。』
「そうだな。」
「そうですね。茶羅が、自分で決めたことです。」
三人は寂しげにそう言って、それから燿を見据える。


「南雲燿。」
「はい。」
「もう一度聞きます。覚悟はいいですね?」
「勿論。」
『茶羅を、引き受けますね?この先の困難を、引き受けますね?』
「はい。引き受けます。」


「・・・はぁ。ですよねぇ。」
「即答だな。」
『えぇ。即答でなければ、今から取りやめるところでしたが。』
「え!?そんな話だったの!?」
『「そうですが?」』
何か問題があるか、というように視線を送られて、燿は黙り込む。


「・・・頼んだぞ、燿。あの日の覚悟を忘れるな。そなたは、茶羅の空となり、羽を休める大木になると言った。その誓い、違えるな。」
白哉に鋭い視線を向けられて、燿は強い視線を返す。


「はい。誓います。茶羅とのことを許し頂けたこと、そして、俺たちのために、多くの無理を通してくださったこと、大変感謝いたします。」
燿はそう言って三人に深々と頭を下げる。


『・・・頭を上げてください。僕らには、これしか、出来ないのですから。』
「でも・・・。」
「いいんですよ。」
橙晴は燿の言葉を遮って言う。


『いいんです。お礼を言うのはこちらの方です。』
「え?」
青藍の言葉に、燿は首を傾げる。


「・・・私たちは、茶羅が、いずれ、飛び立つことを解っていたのだ。」
『えぇ。あの子は、僕らには出来ないことを成し遂げます。全てを断ち切り、鳥籠を出て、大空を羽ばたいていく。僕らは、僕らが茶羅にとって、どれほど重荷か、よく知っています。』
「だから、僕らだけでは、茶羅を逃がすことが出来なかったのです。」


『つまり、貴方の存在がなければ、茶羅は、飛ぶことが出来なかった。』
「茶羅を引き受けることは、生半可な覚悟では出来ぬ。その辺の貴族でさえ、朽木の名を求めて茶羅を引き受けても、茶羅の後ろにある朽木という名に潰されるだろう。朽木の名は、重い。」


「でも、燿さんは、それでも茶羅を引き受けると言いました。その重荷に耐えて見せると。尚且つ、茶羅に空を与え、休む場所を与えると。だから僕らは、貴方に茶羅を任せることに決めたのです。」
三人はそう言って笑みを見せる。

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