色彩
■ 7.目覚め

翌日。
「・・・ふふ。」
くすくすと笑う声が聞こえて、青藍は目を覚ます。
『ん・・・。』
「青藍?起きたのか?」
青藍の声が聞こえたのか、深冬が青藍の顔を覗き込んだ。


『うん・・・。お早う、深冬。』
まだ眠そうな瞳ではあるが、青藍は深冬に微笑む。
そして、何時ものように、深冬の頭の後ろに手を回して、彼女の顔を引き寄せる。
自分も少し起き上がって、その唇に口付けた。


「ん!?」
深冬は焦ったような声を上げて、その唇をすぐに離す。
『深冬?どうした・・・の・・・?』
目で周りを見ろと深冬に促されて、青藍は周りを見る。
すると、楽しげな視線が自分に向けられていることに気が付いた。


『・・・うわぁ!?な、何をしているんです!?』
状況を理解した青藍は深冬を解放して慌てて起き上がる。


「おはようございます、青藍兄様。漸くお目覚めですか?」
「おはよう、青藍。面白いものを見せてもらったわ。」
「そうだな。止める間もないくらい自然に口付けたな。」


「普段は隠しているようだが。」
「そのようですね。少し、驚きました。」
「青藍様の寝顔というだけでもレアなのに、深冬様との接吻まで見られるとは。」
橙晴、雪乃、咲夜、白哉、ルキア、晴の六人にニヤニヤと楽しげに言われて、青藍は思わず赤くなる。


『だ、駄目です!見ないでください!!』
青藍はそう叫びながら顔を手で覆った。
「何を今さら恥ずかしがっているのですか。」
『う、五月蝿いな。僕は、橙晴みたいに、誰かの前でこんなことをする趣味はないんだよ!』


「そうよね。隠れてしているのだものね。・・・しかしまぁ、他人に見られるとそうなっちゃうわけ?だから、そういうの、私たちに見せないのね。予想以上のへたれだわ。」
呆れたように言いながらも、雪乃は楽しげである。
『!?ち、ちが、違うよ!?ちょっと、予定外なだけで、そんなこと、ないもん!!!というか、皆して何なんです!?人の寝顔を見ているとか、趣味が悪いです!!』


「ははは。可愛かったぞ、青藍。」
「よく眠っていたな。」
「はい。寝顔は大きくなっても変わりませんね。」
「ふふ。確かに、昔はこのようにすやすやと眠っておられましたねぇ。」


『うわぁ、もう、やだ・・・。もしかして、深冬も見てた・・・?』
指の隙間からチラリと深冬を伺い見ながら、青藍はいう。
若干顔を赤くした深冬は、気まずげにこくりと頷く。
『なにそれ・・・。何重にも恥ずかしい・・・。』


「ふふん。深冬が一番楽しげだったぞ。」
「そうだな。私たちが来る前からずっと眺めていたようだ。」
「な!?ち、ちがいますよ、白哉様!?た、楽しかったのは、事実ですが、そんなことは、ありません!」
楽しげな白哉に、深冬は慌てて否定する。


「そうか?」
「そうです!」
慌てた深冬に、白哉は小さく笑う。
「わ、笑わないで下さい!白哉様!」
恥ずかしさで涙目になっている深冬を見て、白哉はさらに笑う。


「・・・白哉様、意地悪だ。」
笑う白哉に、深冬は拗ねたように言う。
「済まぬ。」
白哉はそんな深冬を宥めるように謝った。
「瞳が笑っています。」
しかし、深冬は不満げに頬を膨らませる。


「そうか?」
「そうです。」
「・・・そんな顔をするな。笑って済まなかった。」
白哉は微笑みながらそう言って、深冬の頭を撫でた。
「・・・やっぱり、白哉様って、狡いわよね。」
頭を撫でられて大人しくなった深冬を見て、雪乃はポツリと呟く。


「あはは。なんだか、白哉と深冬の方が、親子らしいなぁ。」
咲夜は楽しげに言う。
『え、それは、僕が、父上と親子らしくないという・・・?』
「そうではないのだが、何というか、深冬の方が白哉に似ているのだ。」


「まぁ、確かに、兄様は母上似ですものね。兄様と母上は、親子というより姉弟のようですが。」
「ふふ。そうか?」
「えぇ。母上の容姿も相まって、知らない人が見ればそう思うでしょう。」
「ふふん。それは嬉しいな。私はまだまだ若いということだな?」


「そうですね。お蔭で父上は心配事が増えるばかりです。」
「それは白哉様だけではありませんわ。咲夜様だってそうでしょう?」
晴は楽しげに咲夜を見る。
「ふふ。そうだな。未だに、白哉に想いを寄せる者は多い。」


「心配か?」
「いいや?だって、白哉は私を愛してくれているのだろう?」
「そうだな。」
「白哉の心配は、私の心が白哉から離れるという心配ではないのだろう?」


「あぁ。そなたの心と体は私のものだ。」
「そうそう。それで、白哉の心と体は私のものなのだ。」
二人はそう言って微笑みあう。


「あらあら。お変わりないのですね。相変わらずの相思相愛ぶり。」
「そうなのだ。白哉兄様も咲夜姉さまも、いつもこうなのだ。」
ルキアは少し困った顔をした。


『・・・あれ?ところで、皆さん何故ここに?そして、今何時です?』
青藍はそう言って首を傾げる。
「もうすぐ昼時だ。昼餉を一緒に取ろうとやってきたのだ。」
『え、昼!?僕、そんなに寝てたの!?まだまだやることがあるのに!!』
青藍はそう言ってベッドから飛び降りる。


「まぁ、落ち着け。その辺は、白哉様たちが手を貸してくれたのだ。」
慌てた様子の青藍に、深冬は落ち着かせるように言う。
『え・・・?』
言われて青藍は皆の顔を見まわした。


「準備は滞りなく。兄様の仕事は、この書類に目を通すだけです。それが終われば、今日と明日の仕事は終わります。茶羅の祝言まではゆっくりできますよ。」
橙晴の差し出した書類を受け取って、青藍はポカンとする。
『こ、これだけ・・・?』
信じられないと言った様子で、青藍は白哉を見た。


「当主の日常業務は私が引き受けた。邸の外のことは、爺様が。」
「そうそう。銀嶺お爺様が、後で肩もみでも頼もうかのう、と、言っていたぞ。」
「祝言の準備は整っています。邸の警備も僕が配置を考えておきました。一応兄様に確認してもらいますが、おそらく兄様の考えを汲み取っているかと。」


「橙晴って、本当に当主の技量があるのね。吃驚したわ。」
「はは。橙晴だけではないぞ。茶羅だって同じことが出来る。」
「流石朽木家ですねぇ。」


「・・・そういう訳で、青藍はそれだけ終わらせればいい。」
深冬はそう言って微笑む。
皆が青藍に笑みを向けて、青藍は困ったように笑う。
『やっぱり、僕、まだまだ敵わないなぁ。』


「当たり前だ。私が何年当主をやっていたと思っているのだ。」
「僕だってそのくらい朝飯前です。」
「銀嶺お爺様も朽木家の元当主だからな。この程度のこと、難なく熟す。立っているものは親でも使え、と、いうだろう?」


『・・・ふふ。そうですね。力の足りない当主で申し訳ありませんが。』
「それはそれでいいのではないかしら。何も言わなくても誰かが手を貸してくれるというのは人徳というのよ。つまりそれも貴方の力のひとつだわ。」
『あはは。なるほど。そう言って貰えると気が楽になるよ。』

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