色彩
■ 2.荊の道の始まり


「君が多くのものに絡め取られていることは知っている。君がどんなに願っても自由に飛び回ることが出来ないことも知っている。それなのに、茶羅を野に放つなんて、君は、本当に優しいね。」
そこまで言って、燿は青藍を真っ直ぐに見つめる。


「だから、俺たちはそれに応えよう。何処までも飛んでいくよ。そして、君が呼べば、君の元へ飛んでいこう。・・・必要ならば、捕えてもらっても構わない。」
燿の言葉に、青藍は息を呑む。
『そ、れは・・・。』


「俺も、茶羅も、君にすべてを背負わせたりはしないよ。二人で、そう話し合った。俺たちを捕えて、鳥籠に入れるのならば、それでいい。俺たちとの繋がりを全て断ち切るなら、それでいい。俺たちはね。君の重荷になりたいわけではないんだ。俺たちの未来は、俺たちの力で切り開く。」
真っ直ぐな瞳に捉えられて、青藍は気圧される。


「だから、青藍君だけが、苦しまないで。それだけは、約束して欲しい。こちらから、こんなことを言うのは生意気なのだけれど。・・・これが、俺と茶羅の覚悟だよ。どうか、この覚悟を受け取って欲しい。」
言われて青藍は内心苦笑した。


この人は一体どこまで解っているのだろう。
いや、この人だけじゃない。
茶羅は、僕が、自分を切り捨てる可能性にまでたどり着いているんだ。
母上が拘束されたとき、母上を切り捨てるという可能性に僕が辿り着いたように。
そう考えて、青藍は真っ直ぐに燿を見返す。


『・・・その覚悟、受け取らせて頂きます。もちろん、そうならないようにするのが僕の務めですが。もし、そうするしかなくなったときは、僕は・・・私は、貴方方を切り捨てるでしょう。苦しめるでしょう。それが、定めであるのならば。』


「うん。それでいい。俺たちは、それを引き受けるよ。それで君を恨んだりもしない。君の役目はそう言うものなのだろうから。俺たちが、それを解っていることを、伝えておきたかったんだ。」
『はい。心に留めておきましょう。』


「・・・青藍様。」
襖の向こうから青藍に声が掛かる。
『清家。入っていいよ。』
「失礼いたします。」
清家はそう言って静かに部屋に入ってくる。


「・・・十五夜様、安曇様よりお祝いの品が届きました。」
言いながら、清家は本当にいいのかと問うように青藍を見る。
青藍はそれを黙殺した。
『公表の準備は?』
「整いましてございます。」


『そう。・・・では、命じる。朽木茶羅、南雲燿の婚約を公表せよ。祝言は三日後。変更はない。また、南雲家が周防家に連なる者であることも同時に公表する。行け、清家。』
「は。」
青藍に言われて、清家は一礼するとすぐさま部屋を出て行く。


「・・・荊の道の始まりってところかな?」
清家を見送って、燿は冗談っぽく言う。
『ふふ。お互いに、荊の道ですねぇ。ですが、僕は立ち止まったりしませんよ。』
青藍は挑むように言った。


「俺だって、立ち止まる気はない。茶羅を手放す気もないし。」
『えぇ。そうしてください。ここから先は、貴方にも頑張って頂かなければ。』
「当然だよ。俺の道だからね。茶羅と共に切り開いてみせる。」
『はい。・・・これから三日が勝負です。三日逃げ切れば、とりあえず茶羅は燿さんのものになります。祝言を挙げてしまえば手を出し難くなります。』


「そうだね。・・・言われた通り、今日から琥珀庵は休みにしている。父さんと母さんは漣家にいるよ。俺は、三日間朽木家に籠る。茶羅と一緒に。」
『朽木家、周防家はこの三日間沈黙します。祝言にお呼びした方々は、他の貴族に詰め寄られても何食わぬ顔で知らぬ存ぜぬを貫き通してくれます。』


「蓮に晴、玲奈さん、それに朽木家の方々はどうするんだい?」
『僕らは死神業を熟しながら貴族から逃げ回ります。三日間隊舎に籠りきりでしょうね。まぁ、護廷隊内に居れば、貴族の方々はそう簡単に入ってくることは出来ません。死神の中には貴族の方もいらっしゃいますが、その辺は適当にあしらいましょう。』
青藍は楽しげに言う。


「この状況を楽しむとは流石青藍君だね。」
『ふふ。お互い様ですよ、燿さん。・・・安曇様たちからの品は祝言の日にお渡しいたします。では、三日後に、また。』
「うん。三日後に。」

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