色彩
■ 35.昇進

翌日。
「・・・何で、何で貴方、すでに席官なのよ!!!!」
「し、知らないよ!!おれが聞きたい!!」
「何で知らないのよ!しかも七席って何!?昨日までの七席は!?」


「この状況で、おれがそれを知っていると思うの!?」
「知っておきなさいよ。この馬鹿!」
青藍が深冬と共に三番隊舎に足を踏み入れるとそんな言い合いが聞こえてきた。
二人はその声に顔を見合わせて苦笑する。


今朝、梨花と紫庵の婚約が発表されたのである。
それから彼は今日から(正確には昨日から)三番隊の第七席なのだ。
その二つを祝いに、青藍と深冬は三番隊までやってきた。


「梨花さまがいらっしゃるようだな。」
『そうらしい。』
二人は苦笑しながら二人が居るであろう執務室へと歩を進める。


『失礼するよ。やぁ、梨花姫、久世君。ご機嫌いかが?』
執務室に入ってきた青藍を見て、二人は目を見開く。
その他の隊士たちはすぐさま青藍から目を逸らした。


・・・青藍、あの後、一体、何をしたのだ?
深冬は内心で呟いて、青藍をチラリと見上げる。
しかしそこには楽しげな表情しかない。


「・・・ご機嫌いかがも何もないわよ。この私を騙しておいて、飄々と現れるなんていい度胸じゃない・・・。」
梨花は唸るように言う。
『騙した?僕が?』


「そうよ!青藍様、知っていたのね!?紫庵が七席になること!!!」
詰め寄られて、青藍は苦笑する。
『知っていたけど、そうしたのは僕じゃないよ。』
「嘘よ!!」


『本当さ。だって、昨日のシナリオを作成したのは、僕じゃなくて橙晴だもの。』
「「!!??」」
青藍の言葉に二人は目を丸くする。


『ふふ。僕はある程度朽木家の名を使うことを許可しただけ。ローズさんとイヅルさんに話をつけたのは橙晴。父上に母上、春水殿に十四郎殿。彼らに総隊長の説得をお願いしたのも橙晴だよ。今回、「私」は手を出していない。「僕」はお手伝いをしたけれど。』


「それじゃあ、橙晴様が、紫庵を七席にしたの・・・?」
『まさか。橙晴は久世君を推薦しただけ。その後はローズさんとイヅルさんが隊長副隊長として久世君の評価をして、その結果、それが受け入れられたという話だよ。これは、久世君が自分の力で勝ち取った席官だよ。そうでなければ、僕も深冬もわざわざお祝いに何て来ないさ。僕らはそんなに暇じゃない。』


「そうなんですか!?だって、橙晴、おれに何も言わなかった!!さっきも君みたいなのが僕と同じ席官だなんて信じられないとか言って、ほっぺた抓られました!!」
紫庵の言葉に青藍と深冬は思わず笑う。
「橙晴は、そういう奴だろう。」
「そうだけど!!」


「そう騒ぐな。鬱陶しい。」
「え、加賀美さん酷い!!!」
深冬に面倒そうに言われて紫庵は涙目になる。


「・・・全く面倒な奴だ。良く聞け、久世。橙晴がそこまでしたのだぞ。それは久世の実力を認めているからだ。橙晴は、その辺の評価は厳しすぎるくらい厳しいだろう。どれほど仲の良い相手でも、私情で優遇したりはしない。久世はそれをよく解っているだろう。橙晴の傍に居たのだから。」


「うん。橙晴はそう言う優しさは持ち合わせてないよ。だって、橙晴は、自分に厳しいもの。自分が朽木家の者であることをちゃんと受け止めて、私情を捨てて判断するもの。それで自分が我慢することになったり、辛くなったり、恨まれたりしても。」


「橙晴はそういう奴だ。ということは、久世が此処に居るのは、久世の実力なのだ。」
「そう、なの・・・?」
「そうだと言っているだろう。自信を持て。お前にはそれが足りない。だから鬱陶しい。」
深冬はそう言ってため息を吐く。


「え、酷い・・・。」
『ふふ。深冬の言う通りだよ。それに、君がどう思おうと、君はもう席官なんだ。胆を据えて、覚悟を決めなさい。そうでなければ務まらないよ。・・・七席への昇格、おめでとう。席官として、君を歓迎する。どうぞ、よろしく。』
紫庵は青藍に微笑まれて、思わず梨花の後ろに隠れる。


『あら。逃げられた。』
「早く慣れた方がいいぞ、久世。いちいちそれでは仕事にならない。」
深冬は呆れたように言う。
「だって・・・。」


「だってじゃないわよ!この私を盾にするなんて馬鹿なのかしら?」
「うひゃい!ご、ごめんなさい。」
低く言われて紫庵は慌てて飛び退く。


「・・・はぁ。何故あの父でこの子どもになるのよ。采湧殿の遺伝子は一体どこへ行ったの・・・。本当に親子なのよね・・・?」
『あはは。それは勿論。僕が保障するよ。』
「何で青藍様が保障するのよ。可笑しいじゃない・・・。」


『まぁ、それは、色々と。・・・で、席官昇格の祝いの品を持ってきたのだった。』
青藍はそう言って包みを取り出して紫庵の机の上に置いた。
「あ、ありがとう、ございます。」
驚きながらも紫庵は青藍に頭を下げる。

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