色彩
■ 31.叫び


『父上・・・。忙しさで僕を殺す気ですか・・・。』
「それでなくてもこれから山本の爺に事後報告に向かわなければならないというのに。」
『何故だかきっと僕らまでお説教を喰らうというのに・・・。』
「兄様がすまないな・・・。」
疲れたような二人にルキアは苦笑する。


「・・・後で父上に仕事を放り投げてやります。」
『あはは。そうだね。二人で一緒に放り投げてやろう。父上なんか書類に埋まってしまえばいいんだ。六番隊の皆から書類を集めて隊主室を埋め尽くしてやる・・・。』
「ははは・・・。」
不穏な会話をする二人に、ルキアは苦笑するしかない。


「・・・深冬は青藍と一緒に帰ってくるのだぞ。今日は仕事がないからな。もう上がっていいぞ。青藍の手伝いをしてやるといい。」
「はい。ルキアさんはどうなさるのですか?」
「私も十三番隊の後片付けが終わったら、可哀そうな恋次の手伝いをしに六番隊に行く。」


「なるほど。阿散井副隊長は今、六番隊の仕事を投げられているのでしたね・・・。」
『あぁ、そう言えばそうだった。仕方がないから橙晴は先に六番隊に帰っていいよ。深冬も一緒に帰りなさい。』
「やった!山本の爺のお説教に捕まらなくて済む!」


「はは・・・。良かったな、橙晴。」
喜ぶ橙晴に深冬は苦笑する。
『その代わり、僕の分のお仕事もちゃんと進めておいてね。』
「あはは・・・。はぁい。それじゃあ行こうか、深冬。」
「そうだな。」
そう言って二人は三番隊の執務室から出て行く。


『さてさて。後は僕が片付けましょうかね。ルキア姉さま、天挺空羅は解除しますね。また後で。』
「あぁ。また後で。」
ルキアが軽く手を振るのを見て、青藍は天挺空羅を解く。
それからあたりを見回した。


『・・・さて、と。後はそこの柳内君を片付けるだけだね。』
にっこり。
そんな微笑みに、先ほどのやり取りで緩んだ空気が再び引き締められる。


「何故、私たち二人だけ、残されたのかしら・・・?」
「深冬は帰されたのにな・・・。」
「もしかして、私たち、碌でもないものを見せられる・・・?」
「いや、見せられるだけならまだましだろう。それに加担させられる方が問題だ。」
実花と豪紀は嫌な予感を感じて、気配を殺す。


『雪乃。もう出てきてもいいよ。』
青藍がそう言うと、雪乃が姿を見せる。
「は?朝比奈?」
「雪乃様?」
突然姿を見せた雪乃に、豪紀と実花は目を丸くする。


『雪乃。好きにしていい。怪我をさせたら僕らで治療すればいいし。睦月がその辺に居るけど、多少のお痛は見逃してくれるでしょ。怒りを感じているのは睦月も一緒のはずだから。』
「そうね。それじゃ、遠慮なく。」


雪乃は頷くと一直線に柳内の元へと向かう。
彼らの会話に疑問を持つ者は少なくなかったが、口をはさめる者はここには居ない。
「あ、朝比奈、先輩・・・。」
そう言って小さく後ずさった柳内を冷たく見据えて、雪乃は手を振り上げた。


パン!!!
振り下ろされた手が柳内の頬を直撃する。
その衝撃に柳内はふらついた。


「貴方、本当に馬鹿なのね。呆れたわ。院生時代から何も変わっていないじゃない。自分にとって邪魔なものは徹底的に苛め抜く。そして、壊れていく姿を嘲笑う。貴方のせいで何人の人が死神を諦めたことか。」
ひやりとした声を出しながら、雪乃は柳内を睨みつける。


「誰かが傷つけられて、自分が傷つく人もいるのよ!他人の痛みを敏感に感じ取ってしまう人もいるの!それで悲しむ人が居るの!!苦しむ人が居るの!!」
雪乃の叫びが執務室に響き渡る。


「・・・ある隊士は、貴方に怯えて何も話さなかった。またある隊士は、泣きながら話してくれたわ。名前は明かさなかったけどね。酷く心を病んで、やめていった隊士も居るのよ。四番隊では、私では、それを救うことが出来なかった!!!こんなに悔しいことはないわよ!!その上、橙晴まで苦しめた。あの人は、冷たく見えるだけで、表面上は飄々としているだけで、自分のせいで久世君を巻き込んだことをずっと悔やんでいるのよ!」
怒りに震えながら、雪乃は言葉を続ける。


「何故、橙晴が、久世君に避けられたとき、無理に近付こうとしなかったか解る?自分が近くに居るせいで彼を巻き込んだことをちゃんと解っているからよ!だから、自分が近づかなければ、久世君は大丈夫だと思っていたの。だから、数年間、橙晴は友人に離れられても何も言わなかったの。大切な友人に避けられても文句ひとつ言わなかったの。」
そこまで言って、雪乃は柳内を真っ直ぐに見つめる。


「貴方は昔、青藍に言ったわよね。朽木家は恵まれているから、朽木家で育った者には解らないことがある、と。」

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