色彩
■ 28.処罰


「君は・・・確か同期の・・・。」
橙晴は思い出すように言う。
「はい・・・。高梨と言います。」


「あぁ、そうそう。・・・それで、高梨君。君は紫庵の机がどこにあるか知っているのかな。」
「はい。久世の机は、お二人がおっしゃられた通り、木崎さんの後ろにありました。でも、その、机は・・・。」
高梨はそこで言葉を切って、意を決したように再び口を開いた。


「久世の机は、柳内さんが隊舎の外に投げ捨てました。久世の机は今、三番隊舎内の倉庫の屋根裏にあります。新人研修が終わってからは、俺たち同期に迷惑をかけるからと、彼はそこで仕事をすることを選びました。」


「・・・そう。」
橙晴は何かに耐えるように目を瞑る。
「申し訳ありません、朽木五席。もっと早くお知らせするべきでした。学院時代の時のように。そうすれば、久世は・・・。」
高梨は深く頭を下げながら言う。


「・・・いいんだ。気付けなかった僕も悪い。紫庵が僕から逃げる理由なんて一つしかなかったのにね。紫庵は僕と対等で居たかったから、僕には頼らなかったのに。だからこそ、僕が気付くべきだったのに。」


「違います!俺たちが、いけなかったんです。三番隊に来て、柳内さんが居ることを知って、それなのに、俺たち、何も出来なくて。院生、時代の時のように・・・。」
高梨に続いてもう一人声を上げる者がある。


『おや、君は永江君じゃないか。橙晴、久世君に続いて成績が良かった子だ。』
「覚えて頂いているようで光栄です。でも、俺には、覚えて頂くことなど、勿体ない・・・。」


『ふふ。僕らが誰の名前を覚えるかなんて、僕らの勝手だよ。・・・さぁ、他に久世君の机の場所を知るものはいるかい?・・・どうやらここには居ないようだね。それでは、高梨君、永江君。君たちは久世君の机にこの書類を置いてきてあげて。』
青藍は橙晴の手から書類を取り上げて二人に渡す。


「「でも・・・。」」
『いいから。二枚目の書類はとても重要だから見えやすいように一番上に置いてあげてね。』


青藍に言われて高梨が二枚目の書類を手に取る。
それはただの書類ではなく、任官状である。
本日正午をもって、久世紫庵を三番隊第七席に任ずるものとする。
それを見て、二人は目を丸くして青藍を見る。


「「ほ、本当に・・・?」」
青藍はそんな二人に頷いた。
『行っておいで。本人にはまだ知らせていないから、驚くだろうなぁ。ま、一番驚くのは梨花姫だろうけど。僕も橙晴もあとで怒られちゃうなぁ。』
青藍は楽しげに笑う。


「そ、それじゃあ、俺、机を・・・。」
そう言って駈け出そうとする永江を青藍は引き留めた。
『まぁ、そう急がない。・・・机を持ってくるのは本人の仕事だよ。それが、久世君への処罰です。総隊長にはそれで手を打ってもらいました。』
悪戯っぽくそう言った青藍に二人は目をぱちくりとさせる。
それから、安心したように小さく笑った。


『そういう訳だから、この書類、お願いできるかな?』
「「はい!行ってきます!」」
『うん。行ってらっしゃい。』
青藍がそう言うと、二人は転びそうになりながら駈け出して行った。


そこへ、誰かの伝令神機の音が鳴る。
深冬が慌ててそれを取り出して、電子書簡に目を通した。
電子書簡を読み終えた深冬は、ほっとしたような顔をする。


『いい報告かな?』
「あぁ。・・・実花様、豪紀兄様。お二人の義理の兄が決定したようです。」
「そう。あちらは恙なく終わったようね。」


「祝いの品を考えなければならないな。」
「えぇ。飛び切り良いものを差し上げましょう。」
実花の言葉に豪紀は頷く。
再び伝令神機が鳴り響いて、深冬は次の電子書簡を開く。


「・・・流石咲夜様。浮竹隊長と京楽隊長にもお礼を申し上げなければ。」
『その様子だと、説得は上手くいったのかな?』
「あぁ。総隊長も納得したようだ。」
『山本の爺を説得するなんて、怖い三人だなぁ。』
青藍は苦笑する。


「そうだな。白哉様の出る幕はなかったらしい。」
『ふふ。それは良かった。父上にご助力願うと対価が高くつくからね。』
「対価を払うのは青藍兄様なので僕としてはどうなろうと構いませんけどね。」
『あはは。酷いなぁ。』
橙晴にしれっと言われて青藍は再び苦笑した。


『まぁ、いいや。・・・では、隊士たちにもお伝えしようか。さっきから母上が天挺空羅で連絡を取ってきているんだ。あー、はいはい。解りましたよ。すぐに繋ぎます。』
青藍はそう言って徐に手を前に出す。


『縛道の八十七、天挺空羅!』
『えぇ、と、これをこうして、ああして、これでいい、かな・・・?』
天挺空羅を片手で保ちながら青藍はもう一方の手で何やら文字を書いた。
すると、大きな画面が出てきて咲夜が大きく映った。

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