色彩
■ 27.再びの問い


「・・・誰も知らない?そんなはずはありませんよね?そこに居る木崎君。君は、後ろの机がなくなったことに気が付かなかったのかい?」
名指しされて木崎はびくりと肩を震わせる。


「答えられない?それは何故?知らないはずがないのに。自分の後ろの者が居なくなれば普通は気が付くよね。木崎君だけじゃないよ。紫庵の席があった場所の両隣の人たちだって、気付かないはずはないんだ。君たちには目があって、その目は見えているはずなのだから。それに、少なくとも新人研修の期間は、紫庵はそこに居たはずなんだ。紫庵を知らないはずもない。」


『・・・ここに居る者たちはどうやら事情を知っているようだね。当然、柳内君も。』
「・・・。」
ちら、と青藍に視線を向けられて、柳内は息を呑む。
自らの悪行が全て知られていることを漸く悟ったらしかった。


「それに・・・三番隊で流れている紫庵に関する噂。貴族に取り入って死神になったというもの、隊舎内で姿を見かけないのは仕事をしていないからというもの、蓮を含めた上位席官が紫庵の顔と名前を覚えているのはこの朽木橙晴が口利きをしたからだというもの・・・挙げればきりがない。」
橙晴はそう言ってため息を吐く。


「解らないようだから、教えてあげるけど。朽木家の名を使うことは、それほど簡単なことではない。僕は確かに朽木家の者だが、当主ではない。今の当主である僕の兄様は、僕が勝手をすればすぐに僕に制裁を加えるだろう。僕にはその権限がないからね。」
橙晴の言葉に皆が目を見開いた。


「朽木家の名を使うのならば当主にお伺いを立てなければならないんだよ。そして、何の利益もないことに手を貸してくれるほど、この当主は優しくはない。仮に適当な隊士を選んで、口利きをすることをお願いしても、朽木家当主は頷かない。上位席官に顔を覚えて欲しいならばそれなりの働きをしろと、切り捨てることだろう。」


『そうだね。私はそれほど優しくない。今回、久世君に手を貸したのは、彼個人を助けるためではない。三番隊を正すため。死神として、それで恥ずかしくないのかと、君たちに問うためだ。』
静かな執務室の中に、青藍の凛とした声が響く。


『君たちは、今のままでいいと思っているのかい?それが、正しいことだと思っているのかな。根も葉もない噂を丸呑みにして、誰一人として久世紫庵に手を差し伸べない。誰一人として、上官に相談しようとする者もない。君たち隊士から見て、三番隊の席官たちはそれほど頼りないだろうか。あれ程蓮が怒っているのに?君たちの隊長と副隊長は、この話を聞いて自分たちの責任だと、落ち込んでいたのに?』
青藍の言葉に隊士たちは俯いた。


『他の席官たちだってそうだよ。今ここには居ないけれど、三番隊の六席まではこの事実を知って責任を感じている。久世紫庵の新人指導にあたった者も、酷く落ち込んでいると聞いた。自分がもっと見ていれば、と。自分から様子を見に来るべきだったと。まぁ、一部、あの七席のようにそれを利用した大馬鹿者も居るけれど。』
青藍は静かに怒りを湛えながら言う。


『過去、隊長が謀反に加わった隊だ。イヅルさんだって、操られていたと言ってもそれに加担した。それで上司を無条件に信じることに疑問を抱いたものも居るだろう。でも、君たちは、何故それを止められなかったのだろうと、悔やんだのではないのかい?当時、三番隊に居た隊士たちはそう思ったはずだろう?』
問われて古参の隊士数人が頷く。


『その経験があるのならば、君たちがこれを止めなければいけなかったのではないのかな。柳内が貴族だからと言って遠慮する必要はない。ここは護廷隊で、実力主義の社会だよ。そこで顔を青くしている柳内など君たちが恐れる相手とも思えないが。』


「この件は既に総隊長にまで報告されている。今、蓮以外の三番隊の上位席官たちは総隊長に呼び出されてお説教だよ。ローズさんもイヅルさんもね。蓮だって、後でお説教だよ。」
『ローズさんの捕縛係とはいえ、蓮も席官だからね。』


「僕も兄様も山本の爺に事の顛末を説明しなければならない。僕らの仕事を増やさないでくれるかな。それでなくても、この話を聞いた母上が隙あらば三番隊に突撃しようとして僕と兄様と父上で必死にそれを阻止しているのに。今だって、父上が母上を監視しているはずだよ。下手すると三番隊が壊滅してしまうから。」
橙晴は面倒そうに言う。


『それはそれとして。・・・久世紫庵も処罰の対象だ。』
青藍の言葉に隊士たちがざわめく。


『当然だろう。彼は橙晴の友人で、橙晴に助けを求めることが出来たのだから。橙晴に限らず、席官たちに相談することだって出来た。それをしなかったのだから、隠蔽に加担したと取られてもおかしくはない。もちろん、彼は被害者でもあるから、君たちよりは軽い処罰になるだろうけど。まぁ、彼のことだから、君たちと同じ処罰を受けるとか言い出しそうだけれど。』


「・・・もう一度聞くよ。久世紫庵の机は何処にある?」
問われて隊士たちは黙り込む。
暫くして、小さく手が挙がった。

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