色彩
■ 必然

「失礼いたします。」
「深冬か。どうした?」
雨乾堂で仕事をしていた浮竹の元に、深冬が姿を見せる。


「咲夜様からの報告書を届けに参りました。こちらになります。」
「そうか。ありがとう。・・・漣はどうした?」
差しだされた書類を受け取りながら、浮竹は深冬に問う。


「今日の仕事は終えたので、何時ものようにお出かけになりました。今日は三番隊だそうです。」
「またか。まったく、彼奴は・・・。」
浮竹は半ば諦めつつも呟くように言う。
そんな浮竹に深冬は苦笑した。


「まぁ、いい。漣の仕事が終わっているということは、深冬も終わったのだろう?」
「はい。今日の分は終了いたしました。」
「そうか。今日もご苦労だったな。」
浮竹はそう言って微笑む。


「いえ。何か仕事があるのならば、引き受けますが。」
「いや、大丈夫だ。今日は調子がいいからな。お前は休憩していいぞ。」
「ですが、私だけ休憩という訳には・・・。」


「ははは。生真面目な奴だなぁ、お前も。・・・そうだ!さっき燿が来て、饅頭を貰ったんだ!少しお茶に付き合ってくれるか?」
浮竹は言いながら楽しげに饅頭を取り出す。


「俺も休憩しないと、朽木に叱られてしまうんだ。」
そんなことを楽しげに言う浮竹に、深冬は小さく笑みを零す。
「では、私はお茶をご用意してきます。」


「・・・琥珀庵の饅頭はいつ食べても美味いなぁ。」
「はい。私も好きです。」
二人はのほほんとした様子で、もぐもぐと饅頭を咀嚼してお茶を啜る。
開け放った窓から風が入ってきて、二人の髪を揺らす。
きらきらと光る深冬の髪を、浮竹はまじまじと見つめた。


「どうかしましたか?」
それに気付いた深冬は、不思議そうに首を傾げる。
「いや、綺麗な髪だと思ってな。それに・・・。」
「それに?」


「長くなったなぁ。入隊してきたときは肩ぐらいだっただろう。」
浮竹はしみじみという。
入隊当時の小さな深冬を思い出しながら。


「そうですね。入隊してからは切っていません。」
「何か理由があるのか?」
問われて深冬は小さく微笑む。
はにかむような微笑みに、浮竹は首を傾げた。


「・・・この髪も、瞳も、青藍が、綺麗だと言ってくれたので。」
そう言った深冬の表情も瞳も柔らかくて、浮竹は内心で苦笑する。
なるほど。
青藍のためか。


「それに、この髪と瞳が、私と青藍を繋ぎ、私と父様を繋いでくれました。それを切ってしまうのは、少し、勇気がいるというか・・・。」
深冬はそう言って目を伏せる。
「髪を切ったら青藍や安曇様との縁まで切れてしまいそう、か?」
浮竹の問いに深冬は小さく頷く。


「私は、それが、怖いのです。青藍と出会う前は、他人との繋がりがなくても平気で、一人でも大丈夫だと思えたのですが、今は、それがどれほど寂しいことだったのかよく解ります。・・・昔に戻るのは嫌だ。あの、偶然の出会いがなければ、私は、今も・・・。」
呟くように言った声が、泣きそうで、浮竹は深冬の頭に手をのせる。


「隊長?」
無言で深冬の頭を撫でる浮竹に、深冬は顔をあげる。
「大丈夫だ。髪を切ったぐらいで、切れる縁なものか。お前と青藍も、お前と安曇様も、そんなに脆い縁で結ばれている訳がないだろう。俺とお前の縁だって、そう簡単に切れたりはしない。皆お前が大切で、お前が可愛くて仕方がない。お前が何者であろうと、俺は、俺たちは、お前との縁を切ったりはしないさ。」
力強く言われて、深冬は泣きそうになる。


「それになぁ、これは、俺がそう思う、という話なんだが。」
深冬の頭を撫でていた手を下ろして、浮竹は窓から覗く空を見上げる。
「俺は、この世に偶然などないのではないかと思う。」
「?」
浮竹の言葉に深冬は首を傾げる。


「魂魄は現世と尸魂界を廻るが、人生は一度きりだからなぁ。その一度きりの中で起こったことは、必然なのだろうと思う。一度の人生の中で、一度出会ったら、確率は一分の一だろう?つまり、必ず出会うということだ。必ず出会うということは、縁があるのだと、思わないか?」
浮竹はそう言って深冬に微笑む。


「それでは、あの時、霊術院で、私と青藍が顔を合わせたのは、必然・・・?」


「そういうことになるな。俺と漣が出会ったのも、漣と白哉が出会ったのも、漣と睦月が出会ったのも全て必然なのだろう。睦月が朽木家の医師になって、霊術院でお前に目をかけて、睦月に会いに来た青藍とお前が出会った。どれが欠けても、今、お前がここに居ることはなかっただろうし、他の何かが加わっても、お前はここに居なかっただろう。」
穏やかに話す浮竹の声に深冬は静かに聞き入る。


「偶然が偶然を呼び、それが重なると必然となるのではないだろうか。この世界には多くの人が居るし、その多くの人は多くの人の中から大切な者を選んで、子を生した。その結果、俺もお前も今ここに居て、こうして一緒に茶を飲んでいる。それって、すごい確率だよなぁ。小さすぎる確率の中でも出会うことが出来たということは、縁が強いということだ。そう考えると、これまでの全ては、必然だったのではないか、と思う。」
「確かにそうですね・・・。」


「まぁ、だからと言って、お前に髪を切れという訳ではないが。青藍のために伸ばしているのなら、それでいい。ただ、切りたくなったら切ってもいいし、もし、戦の中で切れたとしても、縁まで切れたりはしない。少なくとも俺は、そう思っているぞ。」
浮竹はそう言って深冬を見つめる。


その瞳は、優しさを含みながらも強い瞳で、恐れることなど何もないのだと、深冬に伝えてくる。
この人はとても大きな人なのだ、と、深冬は改めて思った。
こんなに強い瞳をする人が、私の、十三番隊の隊長なのだ・・・。
深冬は内心で呟いて、誇らしくなる。


「・・・はい。私もそう思います。」
「はは。そうか。それは嬉しいな。・・・さて、俺は仕事に戻ろう。それで、仕事を終わらせたのに悪いんだが、六番隊に書類があるんだ。持って行ってもらってもいいか?」
「はい!」
そうして二人は仕事に戻ったのだった。



2016.12.07
ある日の浮竹さんと深冬。
告白編以降の話です。
青藍の知らないところで深冬を可愛がっている浮竹さんでした。


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