色彩
■ 余計な心配 後編

「「・・・。」」
二人は青藍の鎖骨の下にある痕を見て、沈黙する。
既に痣になっているが、そこにはくっきりとつけられた所有印がある。
『ちょ、もう、放してください・・・。』
青藍は涙目になりながら懇願する。


「・・・これは、予想外だわ。」
「そうですね・・・。」
「・・・もしかして、アンタ、ねだって付けて貰ったの?」
疑うように問われて、青藍は返答に詰まる。


『いや、それは、ですね・・・ねだった、わけ、では、ないと思う、と、いいますか。』
明後日の方を見ながら、青藍は気まずげに言う。
「なるほど。付けさせたのですね?それが普通だとでも教えようとして。」
『・・・。』
七緒に図星を突かれて、青藍は沈黙する。


「・・・あんた、狡い男ね。」
「そうですね。何も知らない真っ新な深冬さんを完全に自分の色に染めようとしていますね。」
『・・・。』


・・・言葉が見つからない。
いや、まぁ、事実なのだが。
青藍は内心で呟く。


「まぁ、アンタはそう言う男よね。じわじわと相手が気付かないうちに自分のものにしちゃう奴だもの。」
「えぇ。相手を騙して婚約したようなものですし。」
『・・・やめて・・・それ以上言わないでください・・・。未だに心が痛い・・・。』
青藍はか細い声で、二人に懇願する。


「まぁ、本懐を遂げたようで何よりだわ。あんたそう言うの見せないからどうだったのか心配してたのよ。」
「深冬さんもそういう雰囲気がありませんでしたからね。」
二人はそう言いながら青藍を解放する。


『そんな心配するの、やめてください・・・。』
青藍は力なく言いながら、袷を直す。
「いやね。心配するわよ。元々女性不信で、あまりにも我慢強いから、枯れてんのかと思ったじゃない。」


『!!??』
乱菊の言葉に、青藍は目を見開く。
『・・・な、そ、そんな訳ないじゃないですか!!!僕、そんなにそう見えます!?皆にそっちに興味があるのか心配されますけど!!!!酷い・・・。僕、泣きそうです・・・。』


言いながら青藍は本気で泣きそうになる。
いや、泣かないぞ。
絶対に泣いてなんかやるものか。
そう思いつつもそう見られることに、男として何か大切なものが欠けているという気がして、落ち込んでいるのだが。


「何泣きそうになってんのよ。違うことが証明されて良かったじゃない。」
「乱菊さんの言う通りです。あんな痕を相手に付けさせるのですから、そういう訳ではなさそうですね。安心しました。」
『酷いです、七緒さん・・・。』


「そんな顔しないの!これからは深冬に隠す必要もないんだからいいじゃない。」
「そうですよ。新婚生活が待っているのですから、楽しめばいいと思います。」
『・・・も、もう僕、帰ります!!!!』
楽しげに二人に言われて、居たたまれなくなったのか、青藍は脱兎の如く十番隊の隊主室を抜け出した。


「・・・青藍、何だかんだ言いながら、幸せそうね。」
「えぇ。深冬さんには、触れることが出来たのですね。・・・良かった。」
乱菊と七緒は、青藍が逃げて行った方を見つめて呟く。


「なぁに、七緒?そんなに心配してたわけ?」
「心配してますよ、いつだって。未だに私たちに自分から触れることは出来ないのですから。もし、愛する人に対してもそうだったらと、ずっと、心配だったんです。きっと、青藍君自身も、そんな不安はあったと思います。触れられなかったらどうしよう、と。」
七緒の横顔は、本当に安堵した様子だ。


「馬鹿ね。青藍が触れたいと感じたのなら、あの子はどんなに体が拒絶しようとも、深冬に触れるわよ。あの子が深冬をどれほど想っているのか、あたしたち、見て来たじゃない。」
「・・・そうですね。」


「そうよ。青藍のトラウマは、きっと、もう一生付き纏うわよ。でもね、あの子は、たった一つの大切なものを見つけたの。それでいいじゃない。たくさんの人に触れられるよりも、たった一つに手を伸ばせるほうが、大切なことよ。青藍は、自分でそれを見つけて、手を伸ばして、掴み取った。それだけであの子は、十分凄いのよ。」


本当に、凄いのよ、青藍。
あたしは、捕まえて、自分に繋いで置くことが出来なかったの。
いつもどこかにふらふらと行ってしまうあの人に守られるばかりで。


あたしだけじゃないわ。
あの人も、それが出来なかったのよ。
だから、一人で全てを抱えて、逝ってしまった・・・。
乱菊は内心で呟く。


「・・・青藍ったら、格好いいわね。」
「えぇ。本当に、大きくなりました。」
「橙晴や茶羅も、ああやって大きくなってしまうんだわ。」


「嬉しいような、寂しいような、自分もああなりたいような。そんな気分です。」
「あたしもよ。でも、本当に良かったわ。」
そう言って笑った二人の表情は、酷く穏やかで、優しいものだった。



2016.11.17
乱菊さんと七緒さんの余計な追求は、心配の裏返しです。
こんなお姉さんが欲しいと思うのは、私だけではないはず。
青藍の思考がアレなのは男の子なので仕方ありません。


[ prev / next ]
top
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -