色彩
■ 余計な心配 前編

『ふう。お茶が美味しいなぁ。』
青藍はいつものように十番隊の隊主室で休憩をしていた。
冬獅郎は不在なため、現在隊主室には乱菊が居る。
また、京楽を探しに来た七緒も乱菊に捕まって一緒に茶を飲んでいるのだった。


「そうね。青藍君が淹れたお茶は何時も美味しいけれど。」
『ふふ。それはありがとうございます。』
七緒にそう言われて青藍は嬉しげに微笑む。


そんな二人を乱菊はお茶を啜りながらじいっと見つめている。
そして、何か覚悟を決めたように湯呑を置いた。
青藍はそれに気付いているのかいないのか、のんびりと七緒とお茶を楽しんでいる。


「・・・で、初夜の感想は?」
『んぐ!?げほっ!ごほっ!』
唐突な乱菊の問いに、青藍は思わず噎せる。
そしてじろりと乱菊を見つめた。


『・・・一体、何を言い出すんですか、乱菊さん。』
「だってあんた、あんなにずっと我慢してて、それで二日前にやっと祝言を挙げたのよね?何にもないってことは、流石にないでしょ?」
乱菊は楽しげに言う。


「そうですね。青藍君の涙ぐましい我慢という努力が漸く実ったのですから、何もないはずはありません。」
七緒もまた興味津々といった様子だ。
そんな二人から、青藍は視線を逸らす。


『・・・そりゃあ、何もないことは、ないですよ。』
そして、小さく、呟くように言う。
「あら、美味しく頂いちゃったのね?」


『・・・。』
「沈黙は肯定とみなします。」
『・・・。』
「で、どうだったわけ?」


どうと言われれば、それはもう、天にも昇る気持ちといいますか。
可愛すぎるくらいなのに、一回で抑えた自分を褒めて欲しいと言いますか。
愛する人との触れ合いが、あれ程心を震わせるとは思いもしなかった・・・。
内心でそう呟きながら、青藍は深冬の姿を思い出す。


うるんだ瞳。
上気した肌。
赤い唇。
どれをとっても綺麗で、可愛くて・・・。


・・・正直、思い出すだけで体が反応しそうです。
なんて、言えるわけがないのだけれども。
ましてやその相手がこの二人なのだから。
・・・でも、可愛かった。


「・・・青藍君、顔が赤いわよ。」
七緒に言われて、青藍は口元を掌で隠した。
しまった。
顔に出ていたか。


『・・・黙秘権を行使します。』
「そんな顔されちゃあ、聞き出したくなっちゃうわ。」
「えぇ。聞かせて頂きましょうか。」
二人はそう言って青藍に詰め寄る。


『だ、近い!近いです!やめてください!』
「「白状しなさい?」」


にっこり。
そんな音が似合う極上の笑みでそう言われては、青藍はどうすべきなのか解らない。
相手は二人である上に、一枚も二枚も上手なのだから。
しかも今日はそれを止めるであろう冬獅郎さんが居ない。
これほど近づかれては逃げることも出来ない。


『・・・か、可愛かったです。』
青藍は観念して呟くように言う。
「そりゃそうよねぇ。あんた、ギリギリのところで理性を保っていたもの。」
「深冬さんが大きくなり始めてから、煩悩が見え隠れしていましたからね。」
二人はニヤニヤした笑みを浮かべながらからかうように言った。


『う・・・。やめてください・・・。それ以上言わないで・・・。』
二人の言葉に青藍は両手で顔を隠す。
「さぞお熱い夜を過ごしたのでしょうねぇ。」
「初夜ですからね。それはもう、熱帯夜だったのでは?」


・・・もうやだ。
何で僕、今日ここに来てしまったんだろう・・・。
二人にニヤニヤと言われて、青藍は内心で頭を抱える。


「でもねぇ・・・。」
「えぇ。」
「その割には、アンタ、そういう雰囲気がないのよねぇ。」
「そうですね。これは怪しいです。何か隠していませんか?」


『何も、隠してなんか、居ませんよ・・・。』
言いながら青藍は無意識に深冬に付けさせた所有印が残っている鎖骨の下に手を当ててしまう。


「あら、そこに何かあるのね?」
『へ?』
「その手、一体何を隠しているのです?」


!?
七緒に指摘されて、青藍は自分の手の位置を確認する。
鎖骨の下。
・・・これは駄目だ!!!
僕が駄目というか、深冬が駄目というか・・・。
とりあえずこの二人には見せてはいけない気がする・・・。


『いや、何もありません。』
「そうかしら?」
「怪しいわ。」
「「ちょっと見せなさい!」」


『うわ、ちょっと!?』
青藍は二人にがっちりと固定されてしまう。
どうやっているのか、抜け出せそうにない。
ジタバタともがいているうちに、二人の手が青藍の袷に伸ばされた。


『駄目、駄目です!!!セクハラで訴えますよ!?あ、だ、駄目ですってば!!!』
「何がセクハラよ。」
「そうそう。これはちょっとした身体検査です。」
『いやいや、七緒さん!?それは色々と駄目です!!本当に!!!・・・うわ!?』
そうこうしているうちに、青藍の手が袷から退けられてしまう。


「さて、何があるのかしら・・・。」
乱菊は楽しげに青藍の袷を広げた。



2016.11.17
後編に続きます。


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