色彩
■ 23.絵付師、采湧

「・・・どうやら、一本取られたようだ。これでは、並みの男では梨花の夫は務まらないね。紫庵君、大変だなぁ。」
「え?認めちゃうんです!?いやいや、そこは反対して頂けると・・・。」
紫庵はそう言って慶一を見つめる。


「いやぁ、私でも、彼らを相手に反対するのは嫌だよ。珠季と父上まで認めているのなら私が反対しても無駄だろう。あーあ、全く、若い子は恐ろしいねぇ。怖いのは青藍君だけだと思っていたのに。豪紀君まで手強くなってきたなぁ。」
『ふふ。怖いとは酷いですねぇ。加賀美君は僕を騙すほどの器量があるのですよ?その上、十五夜様のお気に入りと来た。あちらの方がよっぽど怖い。』


「ほう。では、認識を改めなければならないね。しかし、十五夜様に気に入られているとは幸いだ。今後、弥彦様を探しに来られた十五夜様は豪紀君に任せるとしよう。」
「あら、それはいい考えね。私もそれには賛成ですわ。」
慶一の言葉に梨花は大きく頷く。


「いや、それは、遠慮したい・・・。」
「そうですわ。面倒だからってこちらに押し付けるのはやめてくださいませんこと?」
「「だって、実際面倒だもの。」」


「「・・・。」」
声を揃えて言われて豪紀と実花は黙り込む。
「・・・こうなったらあの手しかないわ。」
「そうだな・・・。朽木青藍。」
『ん?僕?』


「弥彦様をさっさと捕まえろ。」
「それが出来ないのならば、十五夜様を引き受けることね。」
『あはは・・・。朽木家が総力を挙げてお探しいたします。』
青藍は苦笑しながら言う。


『皆様にご迷惑をお掛けしている十五夜様にも、きつくお灸をすえておきましょう。この間の恨み・・・いや、お礼もしたいですし。本当にあの方は糞爺なんですから。』
青藍は恨めしげに呟く。
その呟きを聞きとった者は、恨み・・・?と、首を傾げるが、青藍の不穏な様子に口を閉ざす。


「うわ、蓮さーん!青藍さんが、突然黒くなりましたー!!!」
青藍の様子に紫庵はどうにか使用人たちの拘束から抜け出して蓮の後ろへと隠れる。
「はいはい。大丈夫だよ。君に危害を加えたりはしないから。」


「ははは。青藍君、怯えられているねぇ。・・・まぁ、とりあえず、体裁を整えるために料亭へと向かおうか。紫庵君のお父上も呼んでいるのだろう?そちらは大変興味深い。」
慶一は楽しげだ。
『ふふ。やはり、知っておいででしたか。・・・当然、お呼びしております。口説き落とすのに大変時間がかかりました。何せ、一年ほど通い続けましたから。』


「ん?青藍様?一年とおっしゃいました・・・?」
青藍の言葉に梨花は首を傾げる。
『そう。一年ほど前から、あの方を家から引き摺りだすために説得させて頂きまして。』
「「「「何故?」」」」
楽しげな青藍に、梨花、実花、豪紀、蓮は首を傾げる。
紫庵はただ目を丸くした。


『君たち、「采湧」という名を聞いたことがあるだろう。尸魂界で最も名高い絵付けの達人。加賀美君の「鴻鵠」の絵付けをした人物でもある。他にも名器と言われる物には、彼の絵付けが欠かせない。』


「それは知っているが・・・。」
「うん。僕だって知っている名前だし。」
「とっても有名ですものね。」
「周防家も笛に絵を付けるときは、采湧殿にお頼みしますもの。」
首を傾げている四人を、青藍と慶一は楽しげに見つめる。


『まぁ、その采湧殿が・・・。』
「紫庵君のお父上、みたいな。ね、青藍君?」
『えぇ。』
「それはつまり・・・こいつは、あの采湧の息子・・・ということか?」


『うん。こう見えて久世君は、あの超有名な絵付師、采湧の一人息子なのさ。』
「そうそう。」
酷く楽しげな青藍と慶一とは裏腹に、一同は唖然とした。


「ちょ、ちょっと、待って、ください!何故、それを・・・?」
紫庵は目を丸くしながら青藍を見つめる。
『本人から聞いたからね。』
「!?」


『色々な人に後をつけられて困っていた時に、助けてくれたんだ。始めはどこぞの放蕩貴族かと思ったのだけれどねぇ。』
「・・・うぐ。否定出来る材料が一つもない。」


『あはは。・・・でも、家に入って驚いた。玄関を始めとして、邸中の絵付けは間違いなくあの「采湧」のものだった。失礼な言い方だけれど、あの規模の邸で、采湧の絵付けを頼めるとは思えない。その上、邸のあちらこちらに絵付けの道具が転がっている。』
「あの父が、邸に、他人を入れた・・・?」
紫庵は信じられないと言った様子で、青藍を見る。

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