色彩
■ 22.出し抜かれる


「なるほど。「偶然」ね。豪紀君も偶然?」
そう問う慶一は楽しげだ。
「いや、俺は実花に連れられて。」
「あらあら。実花ったら、駄目でしょう。豪紀君は忙しい身なのだよ。」


「いいじゃない。豪紀様だって、あれで内心楽しんでおられるのですよ?青藍様やお父様が天井裏に居ることを知っていながら傍観していたのですから。」
「ははは。豪紀君も手強いなぁ。」
「そんなことはありません。俺は南雲三席と仕事の話をしていただけです。」


「あれ、僕を巻き込んだ。まぁ、いいけど。・・・お顔を見るのはお久しぶりですね、「周防様」。ご無沙汰して申し訳ありません。」
蓮はそう言って軽く一礼する。


「構わないよ。三席というのは大変忙しいのだろう?本当ならば、梨花の相手は君が良かったのだけれどねぇ。」
「ご冗談を。僕には玲奈という妻が居りますので。」
蓮はにっこりという。


「それは残念。まったく、漣家に取られるとは失態だよ。私も詰めが甘かったようだ。」
慶一は詰まらなさそうに言う。
「ふふ。それは残念にございましたねぇ。」
「まぁ、それはそれで面白いからいいけれど。燿君に晴お嬢さんもお元気かな?」
「えぇ。兄も妹もかわりありませんよ。」


「ふぅん?燿君は何か変わったと思ったのだけれど。」
慶一はそう言いながら青藍をチラリと見やる。
『ふふ。燿さんは、変わりましたかね?』
「燿君も青藍君みたいなタイプだからなぁ。中々本音を見せてくれなくてね。でも、その様子だと、これから面白いことになりそうだ。」


『そうですねぇ。とっても面白いことが近々起こるでしょう。梨花姫と久世君の婚約という話も中々の騒動になるでしょうが、おそらくそれを上回る騒動があるでしょうねぇ。』
青藍はのんびりという。


「・・・なるほど。それは「決まった」のね?」
梨花は青藍に視線を向けて問う。
『うん。「決定事項」だよ。誰にも文句は言わせない。・・・蓮も、いいね?』
青藍はそう言って蓮を見る。
その視線を受け止めて、蓮は大きく頷いた。


「構わないよ。その騒動が起これば、もう隠す必要もない。皆で散々話し合ったんだ。それで、その結論になった。・・・周防様にもご協力いただくことになるかと。」
「もちろん。珍しくあの弥彦様が私の所に顔を見せたからね。話は聞いている。私もひと肌脱ぐよ。」
「それは心強い。」


「私は可愛い子の味方だからね。・・・豪紀君の所には銀嶺様もいらっしゃっただろう?」
「流石に耳がお早い。・・・えぇ。いらっしゃいました。加賀美家も微力ながらお手伝いさせて頂きます。家臣団にも話は通してありますので。」


「そう。それじゃ、私と紫庵は早々に婚約を発表した方が良さそうね。混乱に乗じて適当に切り抜けるわよ。いいわね、紫庵?」
「うぅ・・・。」
問われて紫庵は涙目になる。


「情けない顔を見せないの!拒否権はないのだから頷きなさいよ。」
「だって、おれなんかで、いいの・・・?」
「私が良いと言っているのよ。お父様にだって文句は言わせないわよ。すでにお母様は貴方を認めているもの。」


「「え?」」
梨花の言葉に紫庵と慶一はポカンとする。
「お母様って・・・珠季だよね?」
「それ以外に私のお母様が居るのかしら?」
「いや、居ないけれども。」


「この前、琥珀庵に一緒に行ったでしょう。その時、窓際の席に女性が居なかったかしら?老人とお茶を飲んでいた女性が。」
梨花に言われて、紫庵は記憶を手繰り寄せる。
「・・・居た!あの、藤色の着物を着た綺麗な人?」
「そうよ。あれは私の母、周防珠季。ついでに一緒にお茶を飲んでいた老人は前周防家当主、周防主計。私のお爺様よ。」
「えぇ!?そうだったの!?」


「・・・いや、待ちなさい、梨花。ということは、つまり・・・。」
「もちろん、お爺様も私の味方ですわよ?」
はっきりと言われて、慶一は内心で頭を抱えた。
それは狡いじゃないか・・・。
それでは、私は反対の声を上げることも出来ない・・・。
慶一は内心で呟いてため息を吐く。


『ふふ。慶一殿、梨花姫に出し抜かれておりますねぇ。』
慶一の内心の呟きを聞いたように、青藍は楽しげに言う。
「・・・青藍君は、知っていたのかい?」
『えぇ。天音様からお話を伺っておりますよ。珠季殿が天音様にお話ししたようですね。』


「では、君は、最初からこうなると解って、賭けを持ち出した・・・?」
『まぁ、そうなりますかね。ちょっと狡いなぁ、とは思ったのですけれど。』
「で、豪紀君もその賭けに乗った・・・?」
「・・・まぁ、そうですね。俺も実花から話は聞いていたので。」
豪紀に頷かれて慶一は唖然とする。


「・・・おかしいと思ったんだよ。君たち、迷わず「頷く」方に賭けるんだもの。」
「賭けに負けるわけには参りませんので。今回の賭けには、特に。」
「お父様、豪紀様にまで遊ばれているのね。」


「そのようね。そろそろ引退なさっては?いい加減、私たちで遊ぶのは骨が折れるでしょう?私一人ではお父様には敵いませんけど、私は独りではありませんの。遊びが過ぎると痛い目に遭いますわよ。」
梨花は呆れたように言う。

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