色彩
■ 21.周防家当主


「死神となって数年でありながら、すでに席官レベルの仕事を熟し、苛めという下らない遊びに耐えながら、それでも死神を辞めることはなかった。その忍耐力と努力を知らない私ではないの。その上、貴方は私が周防家次期当主だということも知らなかった。知ってからも私を梨花ちゃんと呼び続ける。」


「そ、れは・・・橙晴で、慣れた、というか・・・。」
紫庵は呟くように言う。


「慣れたのではないわ。貴方は元からそういう人なのよ。橙晴様もおっしゃっていたわ。紫庵は自分が朽木家の者であるということを知っても態度を変えなかった。媚びることも、取り入ろうとすることもなく、純粋に友人として見てくれたと。その前だって、自分のせいで先輩に苛められても、弱音一つ吐かない強い奴だと褒めていたわよ。あの、橙晴様が。」
梨花の言葉に紫庵は目を丸くする。


「これがどういうことか解る?貴方はあの橙晴様に認められているのよ。あの方はそんな簡単に他人を認めたりしないわ。あの方だけじゃない。朽木家の方は全員そうなの。茶羅様でさえ、簡単に他人を褒めたりしないのよ。適当に褒めて、朽木家の名を利用されることの無いように。つまり、あの方々が口にした褒め言葉というのは、心から出た褒め言葉なの。貴族の集まりにでも顔を出してみるといいわよ。褒めているようで褒め言葉ではないことばかりだから。青藍様なんか酷いのよ?ねぇ、豪紀様?」


「・・・確かにそうだな。まぁ、相手はそれに気付かずに満足しているようだが。」
問われて豪紀は頷く。
「そうそう。・・・久世紫庵。」
豪紀に頷いてから、梨花は視線を紫庵に戻す。
「は、はい!」
紫庵は名前を呼ばれて反射的に返事をした。


「私は、貴方との婚約を受け入れるわよ。」
「・・・へ?」
「何を惚けた顔をしているのかしら。これはお見合いよ。この後適当に料亭に行って体裁は整えるけれど、先に言っておくわ。私は、貴方を夫に望む。覚悟なさい。」
「ほ、本当に・・・?」
「本当よ。」


「な、なぜ、おれ・・・。」
「さっきの話を聞いていなかったの?貴方が頭の悪くない凡人だからよ。でも、一つ、約束しなさい。」
「うん?」


「十年以内に席官に上り詰めなさい。」
梨花の言葉に一瞬沈黙が降りる。
「・・・え!?いや、それは、難しいかと・・・。」


「いいから頷きなさいよ!ほぼ一般人の貴族と見合いをして婚約するだけでも正気の沙汰とは言えないの。周りの貴族たちだってどれほど反対するか。まぁ、反対したところで私はもう決めているのだけれど。だから、貴方には出世してもらわなければ困るの。そのくらいのことはやってもらうわよ。」


「あれ?またもやおれには拒否権がない・・・?」
紫庵はそう呟く。
「当たり前じゃない。それが出来なきゃ貴方は周防家と繋がりを持とうと企んでいる貴族に潰されるわよ。良いから約束しなさい。後十年で席官になるのよ。それまでに私もお父様を当主から引き摺り下ろすから。」


『・・・あはは!!!!』
青藍は梨花の言葉に思わず声を上げて笑う。
その声に皆が天井を見上げた。
『ははは!・・・あぁ、面白い。慶一殿を引き摺り下ろすって・・・く、ははは。』
そう言って青藍は笑いながら執務室へと降りてくる。


「あら、青藍様。覗き見はもういいの?」
『だって、面白すぎて笑っちゃったもの。皆に気付かれたのならば隠れている必要はない。』


「それもそうね。それなら、貴方と一緒に屋根裏に居たお父様も降りて来たらよろしいわ。というか、降りてきなさい!周防家当主が何をやっているの!!!」
梨花は言いながら青藍が降りてきた天上の隙間に簪を投げ込む。


「・・・危ないじゃないか!簪は凶器になるんだからね!?本当に、珠季にそっくり!」
そんな声と共に、慶一が飛び降りてきた。
その手には梨花が投げた簪が握られている。


「そんなところに隠れているお父様が悪いのよ。お母様もよくこんなのを夫にしたわよね。まったく、どうしてこれで当主が務まるのかしら。納得いかないわ。」
梨花はそう言ってじとりと慶一を睨みつける。
「はは。酷い言われようだなぁ。それを言うなら青藍君も同罪だと思うのだけれど。」
『僕を巻き添えにしないでくださいよ。嬉々として天井裏に隠れたじゃありませんか。』


「そうだったかな。いやぁ、貴重な体験だったよ。青藍君はいつもこんな面白いことをしているのかな?」
『まさか。僕はそんなに暇じゃありません。今回は「偶然」このような場に立ち会ったので見学させて頂いただけです。』

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