色彩
■ 19.ほぼ一般人


「そう。それなら、私に話すのは急がなくていいわ。でも、私はそれを聞く覚悟を決めて貴方に教えて欲しいと言ったの。貴方たちが隠すのだから、相当なものだということは承知の上よ。」
『うん。』
「だから、今話せとは言わないわ。でも、これだけ許可を出してくれるかしら。」
『何?』


「・・・私が、必要だと判断したとき、私から青藍様以外の事情を知る方々にも事情を聞くことを許可して欲しいの。」
真っ直ぐに見つめながらそう言われて、青藍は内心苦笑した。


本当に、手強さが増している。
これでは慶一殿も負けないように必死だろう。
本当に必要な時に、僕がその場に居ない可能性に思い当たっているからこそ、そうする許可が欲しいのだ。
僕が中心にいることに気付いているから。


『解ったよ。何を知っても、利用せず、他言せず、ただ己の無力を知る。それを引き受ける覚悟があるのならば、許可しよう。』
「えぇ。ありますわ。」
『・・・では、君にこの話を聞く権利を与えよう。ただし、本当に必要な時だけだ。本当に必要になった時だけ、聞いてくれ。話す方も、勇気がいることだから。』


「解ったわ。一応後で書面にしてくださいね。・・・それじゃ、私、一仕事してくるわね。苛める気も起らないくらい、こてんぱんにしてやるわ。」
梨花はそう言って三番隊の執務室の方へと歩を進める。


『あ、僕はその辺に隠れて見学させてもらうよ。その方が面白いからね。』
「相変わらずなのね。まぁ、いいわ。お父様との賭けに勝たせてあげるわよ。」
梨花の言葉に青藍は目を丸くする。
「私が知らないとでも?」


『あはは・・・。』
「私が紫庵との婚約に頷くかどうか、賭けていたのでしょう。まったく、碌な賭けをしないのだから。呆れた人たちだわ。」
そう言いながら執務室へと向かっていく梨花を、青藍は苦笑しながら追いかけたのだった。


「い、や、だー!!!!!」
青藍が執務室の屋根裏に忍び込むとそんな声が聞こえてきた。
その声に青藍は隙間から執務室を覗く。


「な、何で、おれ、こんな格好を、させられているのです!?実花ちゃん!?何をしているの!?」
「当たり前ですわ。梨花姉さまとお見合いをなさるのだから、このくらい当然でしてよ。良いからじっとしていなさい。牽星箝をつけるんだから。」


「いや、いらないよ!?一応貴族だけどほぼ一般人何だってば!ていうか、牽星箝は上流貴族がつけるものだよね!?」
紫庵はジタバタと逃走を図ろうとするが、実花が連れてきた使用人に押さえつけられている。


「いいから、じっとしていなさい。」
「そ、そんな訳には、いかないよ!!おれ、一般人!!」
「大人しくしないと殴るわよ?」
「ひっ!?」


「・・・なぁ、実花。」
そんな様子を蓮と共に眺めていた豪紀は実花に声を掛ける。
「何ですか?」
実花は手を止めることなく豪紀を見る。


「いや、手元は見た方がいいぞ。曲がっている。」
「あら、本当。やり直しだわ。全く、どうしてこうも面倒な装飾品なのかしら。」
言われて実花は手元を見てそう言った。


「・・・俺はこの場に必要か?」
「必要ですわ!だって、私の姉のお見合いですのよ?気合を入れて頂かなくては。」
「え、何で!?何でおれ、気合を入れなくちゃならないの!?」
「五月蝿いわね。動くなと言っているでしょう。」
「五月蝿い!?ここでもおれには拒否権がないのか・・・。」
紫庵は泣きそうになる。


「・・・俺はそんなに暇じゃないんだが。俺たちの祝言も近くなってきているんだぞ。」
豪紀はそう言いつつもその場で様子を見守る。
「あはは。加賀美君、振り回されているねぇ。流石実花。」
その様子を見て、蓮は楽しげに笑った。


「南雲三席は、本当にアレでいいと?」
声を潜めて豪紀は問う。
「いいんじゃない?・・・梨花は、断らないよ。あの子は、周防家の次期当主。あの子の夫となる者はあの子を支えることが出来る大物か、あの子の土台となることが出来る一般人くらいが丁度いいのさ。紫庵なら、そのどちらになることも出来るだろう。まぁ、彼自身、相当な努力と忍耐が必要だけれども。」


「確かに。この先、あれは貴族の者たちに狙われ、妬まれる。それに耐えられる者なのですか?」
「僕は、そう思うよ。そして、あの紫庵は馬鹿じゃない。馬鹿は貴族に食い物にされるけれど、彼はそれを切り抜ける力を持ち合わせている。心配はいらないさ。」


「慶一殿はこの話を知っておられるのですよね?」
「そうだね。当然、知っているよ。梨花が頷くかどうかについては、頷かない、という予想をしたらしいけれど。」
蓮は楽しげに言う。


「予想・・・あぁ、彼奴との賭けですか。」
「ふふ。ご名答。」
「双方相変わらずのようで。」


「あはは。加賀美君も参加しているくせに。・・・さて、そろそろ梨花が入ってくるよ。青藍は既に屋根裏に居る。鬼が出るか蛇が出るか。僕らは楽しく見学と行こう。ついでに、馬鹿を潰さないとね。そちらに関しては橙晴が手筈を整えている。」
笑顔で言いつつもその瞳は笑っていないのを見て取って、豪紀は内心苦笑した。


この人は本当に朽木青藍の友人だ。
これを相手にするのだから、柳内は大変だろう。
そう思いながらも、豪紀は適当に見守ることにしたのだった。

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