色彩
■ 18.貸し


「・・・愛はなくとも情はあるもの。それが、愛情になることもあるでしょう。」
『お互いに、本当に愛する人が出来るかもしれないよ?』
「呆れた人ね。勝手に見合い話を持って来て、そんなことを言うなんて。それに、それは青藍様たちだって同じじゃない。今は互いに愛し合っていても、いずれそうではなくなるかもしれないのよ?今の愛が一番だなんて、誰にも解らないのだから。」


『確かにそうだ。・・・深冬がそうなってしまったらどうしようかと、日々考えているよ。』
青藍は困ったように言う。
「そうなっても青藍様は深冬様を離したりしないくせに。」


『そう、なのだけれどね。・・・でもさ、愛する人には幸せになって欲しいじゃない。出来れば自分が幸せにしたいけど、それが叶わないなら、その人が幸せになるように、僕なら身を引いてしまうよ。悪役になって、恨まれてあげることすらするだろう。』


「・・・馬鹿ね。青藍様はどうして自分を犠牲にすることばかり考えるのかしら。」
目を伏せながら言った青藍に、梨花は小さく笑う。
『笑わないでよ。僕は本気なのに。』
青藍はそんな梨花に不満げに言った。
「ふふ。・・・でも、そうね。私も、そんな風に愛されたいし、愛したいと思うわ。」
『それじゃあ・・・。』


「いいのよ。それが出来ないとしても、私は決して不幸などではないの。両親が居て、妹が居て、他にも家族が居て。温かい食べ物があって、雨風を凌げる家がある。こんなに綺麗な着物や簪を身に付けることが出来る。この尸魂界にそれが出来ない者たちがどれほど居るのかしら?そんな人たちから見れば、私は幸せなのだわ。そういう人たちを下に見るわけではないけれど、私は、幸せなのだと、思えるの。」
静かにそう言った梨花に、青藍は困ったように微笑む。


『それは、そうなのだけれどね・・・。』
「その分、責任を負っているからだというのでしょう?解っているわ。・・・でも、私、次期当主になるまで、何も知らなかったのよ。それを知らずに、我が儘放題で、それが当たり前だと思っていたのよ。そんな自分が情けないと思ったの。だから、私は、この道を進むのよ。」
梨花は凛と言い放つ。


「今なら、深冬様を巻き込むことに躊躇いを感じていた青藍様の気持ちが解る。自分の道に他人を巻き込むのはとても勇気のいることね。ましてや、その道は明るいものばかりではなく、険しいことの方が多い。巻き込む相手が大切なほど、躊躇うのは当然だわ。でも私は、立ち止まらないわよ。」


『・・・ふふ。格好いいねぇ。』
「そう?じゃあ、とりあえず、この件は貸しってことでいいかしら?」
『ん?』
梨花の言葉に青藍は首を傾げる。


「当然じゃない。私が直々に青藍様に協力するのだから。青藍様に借りがあるとしても、私の貸しの方が大きいわ。何て言ったって、一生をかけるのですから。つまり、今、私は青藍様に貸しがあるということね。」
梨花に楽しげに言われて、青藍は内心舌を巻く。


あらら。
最近手強いなぁ。
そんなことを思いながら、青藍は口を開く。


『それで、僕・・・いや、私に何かお願いでもあるのかな?』
「えぇ。」
『一応聞いておこう。』
「では、遠慮なく言わせてもらいます。」
梨花は足を止めて青藍を見つめる。


「・・・朽木家と漣家が守っているものが、一体何なのか、教えて頂きたい。」


・・・なるほどね。
やはり、彼女は気付いたか。
安曇様が霊王宮の者だということはこの間の件で知れ渡っている。
当然のことながら彼女もそれを耳にしているだろう。
霊王宮、朽木家、漣家。
それから、加賀美家。
十四郎殿や春水殿、烈先生。


事あるごとに彼らが出てくるのは何故なのか。
何故朽木家の者は漣家に心臓を捧げているのか。
・・・母上を守るため、という答えでは、梨花姫は満足しないだろう。
それだけではないという確信を持って僕に問うているのだから。


『・・・それは、その内君も知ることになる。実は、実花姫はもう知っている。』
「そう。やっぱり、そうなのね。そりゃそうよね。豪紀様が夫となるのですもの。」
梨花は納得したように言う。


『そうだね。・・・君が知りたいというのならば、教えてもいい。ただし、知れば後には戻れないと覚悟して欲しい。出来ることならば、僕は、君にこの話をしたくない。君に信用がないという訳じゃない。本来ならば、誰にも話すべきことではないんだ。・・・世の理を覆しかねないものだから。それなりに知っている人が増えているのも事実なのだけれど。』
目を伏せながら静かにそう言った青藍に、梨花は空を見上げた。

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