色彩
■ 15.べた甘

『ほらほら、深冬もお座りよ。あ、僕の膝の上が良い?仕方がないなぁ。』
「うわ!?」
青藍に腕を引かれて深冬は倒れるように青藍の膝に乗る。
青藍はそれを抱えて体制を整えると、満足げに深冬を抱きしめた。


『・・・よし。』
「よ、よくないぞ、青藍!」
『え、何で?』
「な、何で!?」


『まぁ、いいじゃないの。』
「仕事中だ!」
『僕は今休憩中。あぁ、癒される。』
青藍はそう言って深冬の髪に鼻先を埋める。


「だ、やめ、やめろ!!私は仕事中なのだ!」
『いやだ。深冬も今から休憩になった。』
「何だそれは!!」
『いいから大人しくして?それとも後でにする?』
「!!!・・・い、いや、これで、いい。」
『ふふ。そう。それは残念。』


「な、何あれ!?加賀美さんに表情が!!!というか、甘!!!べた甘!!さっきの悪魔は一体どこへ・・・?」
紫庵は信じられないという風に言う。
「ははは!悪魔!!青藍、悪魔と言われているぞ!」
咲夜はそんな紫庵の様子に楽しげに笑った。


『五月蝿いですねぇ。別にいいですよ、鬼でも悪魔でも化け物でも。』
「あはは。まぁ、これが通常運転だから、気にしない方がいいよ、紫庵。」
「通常運転、だと・・・!?」
「そうそう。通常運転だよ。兄様、ほんと深冬には甘いんだから。」


『いいでしょ、別に。そういう橙晴だって、雪乃を抱きしめっちゃってますけど?』
「いいんですよ、別に。父上だって母上の腰に手を回しています。」
「私は咲夜が逃げないように捕まえているだけだ。」
「いや、隊長も通常運転っすよね・・・。」


『まぁ、それはそれとして。・・・父上、これは、問題ですよね?』
真面目な顔になって青藍は白哉を見る。
深冬を抱えているせいで傍から見ると緊張感がないのだが。


「そうだな。隊士の席が執務室にないなど、有り得ないことだ。それを知っていて放置、利用している者は勿論、それに気付かなかった者も何らかの責任がある。」
「つまり、三番隊の全員に責任があるということでしょう。何も言わずにそれを受容していた紫庵も同罪。」
「う・・・。」


「まぁ、そういうことになるわね。ましてや、橙晴という友人が居るのですもの。助けを求めれば何らかの対策が出来た。それをしなかったということは、問題を隠したと思われても仕方ないわ。」
「だが、久世が被害者なのは間違いない。まぁ、そう落ち込むな。」
「うん・・・。」


「・・・で、君を苛めた先輩って誰?」
橙晴は睨むように紫庵に目を向ける。
「・・・。」
「・・・阿木、浅川、加藤、金内、神部、斉藤、匙倉・・・。」


「だ、橙晴。ストップ。何?何でそんなに名前が出て来るの?」
名前を挙げ始めた橙晴に、紫庵は戸惑ったように橙晴を見る。
「院生時代に君を苛めた、若しくは君に暴言を吐いた、又は君を呼び出した先輩方の名前だけど?全部で三十八人。陰口を叩いた者まで入れれば三倍くらいに膨れ上がるね。」


「何で、知って・・・?」
「特進クラスの皆は君に何かあると僕に報告してきたからね。お蔭で、僕は君を苛めた相手をほぼ把握したよ。我がクラスの者たちは、君に甘い。」
橙晴はそう言ってため息を吐く。


「あはは。何だ。同期からは恨まれていないのか。」
「ど、同期は、特にクラスの皆は、優しい、です。苛めるのは、橙晴くらいで・・・。」
「そうか。橙晴は好きな子ほど苛めるタイプだから、仕方ないな。」
「そうですね。・・・橙晴ったら、本当にそうなんだから。」
雪乃は小さく呟く。


「雪乃、何か言った?」
「何も言っていないわよ。・・・それで、結局誰なのよ?貴方たちの先輩ってことは、私たちの後輩って事よね。もしかしたら知っているかもしれないわ。」


『あぁ、そうか。そうだね。一応久世君は貴族だから、流魂街出身者はそんなことはしないだろう。すると、貴族ということになる。貴族にも色々あるが、僕らの後輩でそれほど馬鹿をやってくれそうなのは限られる。』


「えぇ。多治見、長谷部、野木・・・くらいかしら?」
『それから・・・柳内。』
青藍の言葉に紫庵はびくりと飛び上がる。


「・・・ふぅん?柳内さんなんだ。」
「確かに、三番隊には柳内という男が居るね。中流貴族だか何だかで、席官たちも手を焼いている。そうか。あの人か。・・・早々に僕が潰しておくべきだったね。」
ぼそりと言った蓮に、紫庵はぶるぶると震え始める。


「蓮。お前、本当に逞しくなったな・・・。久世が震えてるぞ。」
そんな蓮を恋次は苦笑しながら見つめた。
「大丈夫だよ、紫庵。僕は君の味方だからね。敵には容赦しないけど。」
「う、ひゃい!」
微笑みながら言われて、紫庵は怯えながらも返事をする。


「・・・院生時代の苛められっこが夢のようだな。」
「あぁ。新人の頃のおどおどした様子が全くなくなったな・・・。」
「この成長を喜ぶべきか否か・・・。」
「そうだな・・・。」
咲夜と白哉はそう言って遠い目をする。

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