色彩
■ 13.悪魔の微笑


『橙晴。落ち着きなさい。部屋の外にまで響いているよ。』
「だって!!!」
『落ち着けと言っている。』
青藍の制止に反発しようとした橙晴を、青藍は霊圧を飛ばしながら窘める。


「!!!」
『解ったね?』
「・・・はい。取り乱しました。申し訳ありません。」


『うん。いいよ。君は、悔しいんだよね。友人が苦しんでいることを知らなかった自分が不甲斐ないと思ったんだよね。大切に思っているからこそ、相談してほしかったんだよね。』
青藍は言い聞かせるように言う。


『久世君も橙晴に相談すれば、何とかなると解っていたんだよね。でも、何とかなってしまうから、相談しなかったんだよね。自分で、何とかしようと思ったんだよね。』
「はい・・・。いつも、橙晴に、頼ってばかりで、おれ、橙晴の力になれなくて。でも、それじゃ、駄目で。おれは、橙晴の、力に、なりたくて。朽木という名前を、使いたく、なかったんです。橙晴は、おれを、対等に見てくれるから。」


『うん。橙晴にはとてもいい友人が居るんだね。良かったね、橙晴。』
「に、兄様に、言われなくても、解っています!僕が、選んだのですから、間違い、ありません!」
橙晴は泣きそうになりながら、声を震わせていう。


『あはは。そうだね。・・・さてしかし、そうはいっても、事は個人で解決出来るものではない。いや、出来なくもないが、一般人には少し難しいだろう。』
「一般人・・・。」
『あ、いや、君が一般人とかではなくてだね・・・。まぁ、僕らからしたら一般人というか・・・。』
「いえ、いいです。一般人です。その他大勢の一人で結構です。」


『そういうつもりで言った訳では・・・。まぁ、いいか。つまり、君が一人で解決することは難しいだろう。いくら同期の助けがあるとしても。それに、蓮がそれを知った以上、それを放置することはない。だから、七席が仕事を放棄していることも含めて、僕が手を貸そう。』


「え・・・?いや、いいです。」
紫庵は思い切り首を横に振る。
『どうして?』
「何か、条件が、あるのでしょう・・・?」
恐る恐るそう言った紫庵に、青藍は目を丸くした。
それから吹き出すように笑う。


『あはは!!!なるほど。頭は悪くないらしい。・・・そう。条件がある。』
「や、やっぱり!それも、嫌な予感・・・。」
楽しげに微笑む青藍に、紫庵は訝しげな視線を向ける。
『おや、そうかな。まぁ、聞いてみるかい?』
「な、何ですか・・・?」


『・・・梨花姫とのお見合い。』
「・・・・・・・・・は?」
紫庵は唖然とした声を出す。
「ちょっと待って、青藍。一体、何を考えているの・・・?」
蓮は不審そうに青藍を見る。


『いやぁ、慶一殿がね?梨花姫の相手を探してくれと五月蝿くて。で、梨花姫にどんな人が良いか聞いたところ、「頭の悪くない凡人」という答えが返ってきて、困っているわけ。』
「梨花・・・。どうなの、それは・・・。」


『ふふ。まぁ、中々いい選択だと思うよ?梨花姫は次期当主。だから、梨花姫と結婚する相手は、当主にはなることが出来ない。下手に野心があったり、頭が悪かったりすると、すぐに取り入られてしまうでしょ?だから、夫にするなら「頭の悪くない凡人」くらいが丁度いい。ついでに、慶一殿としては、なるべく貴族が良いらしい。久世君はそれもクリアしている。つまり、梨花姫の欲しい人材だってこと。そんなに顔も悪くないし。・・・まぁ、彼女が気に入ればの話だけどね。だから、とりあえずはお見合いをするだけでいいよ。どう?』
青藍はにっこりと紫庵を見る。


「ど、どう、と、いわれ、ましても・・・。」
『おや、気に入らない?君が頷けば、七席は失恋決定。君か七席か、どちらをいいと思うかは明白だよ。梨花姫は手厳しいから、表面を取り繕っている相手を見抜いてしまう。ついでに、梨花姫にこっ酷く七席を振ってもらおう。』


「・・・ふむ。まぁ、確かに、梨花は紫庵みたいなのが良いかもしれない。」
青藍の話を聞いて、蓮は納得したように言う。
『でしょ?で、久世君みたいな苛められっ子にはある程度後ろ盾が必要だし、しっかり者がそばに居た方がいい。』


「確かに。紫庵は一人で居るとぼんやりしているから、その方がいいかも知れません。」
橙晴もまた頷いた。
『・・・と、いう訳で、梨花姫とのお見合い、決定。』
「えぇ!?おれに、拒否権はないんですか!?」
『え、拒否権を与えたつもりはないよ?朽木家当主の命令を君が断れるとでも?』


「うわ、鬼!!この人本当に朽木家当主だ!!権力振りかざした!!!ていうか、命令!?命令なの!?ねぇ、橙晴、君のお兄さんは鬼なの!?悪魔なの!?いつもの優しい微笑みは嘘なの!?作り物!?」
紫庵は涙目になりながら橙晴に助けを求める。


「うん。基本的にそうだよ。通称悪魔の微笑み。」
「そうなの!?・・・れ、蓮さん!!!」
橙晴にしれっと答えられて、今度は蓮を見た。
「うん。残念ながら鬼で、悪魔で、その上、化け物なの。」


「何か増えた!?」
『あはは。酷いなぁ。まぁ、否定はしないけど。』
「何故笑っておられるのか・・・。も、もう、おれ、何か、駄目な気が・・・。」
「「ドンマイ。僕らでは手に負えない。」」
「そんなぁ・・・。」

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