色彩
■ 12.定位置・・・?

「次期当主・・・?梨花って、あのたまに三番隊に顔を見せる梨花ちゃんですよね?」
紫庵はそう言って首を傾げる。
「そうそう。その梨花。・・・あれ、知らないの?あの梨花は、上流貴族周防家の次期当主だよ?」
蓮の言葉に紫庵は固まる。


「・・・えぇ!!!???だ、だって、おれ、梨花ちゃんって、呼んじゃってますよ!?」
「いや、それは知らないよ・・・。」
「梨花ちゃん、そんなこと一言も言わなかった!!蓮さんも呼び捨てにしているし・・・。」
『なるほど。でも、貴族たちが来た日、君は執務室に居なかったのかい?』


「居ませんでした!だって、おれ、執務室に机ないですもん!!!」


『「「・・・ん?」」』
「・・・今、何か、信じられないことを聞いた気がするのだけれど。執務室に机がないって、言ったよね?」
「そうだね。僕もそう聞こえた。」
『うん。僕も。』
三人はひそひそとそんな会話をする。


『・・・あー、蓮。ちょっと、梨花姫の方の話は後にしてもらってもいいかな?』
「うん・・・。こっちの方が重要だからね。」
『だよね・・・。』
「三番隊で一体何が・・・?机と椅子は隊士一人一人に用意されているはずです。」


『うん。それらがないと仕事が出来ないからね。それも執務室に置かれているはず。』
「その執務室に机がない・・・?じゃあ、一体、紫庵は何処で仕事を・・・?」
三人は首を傾げる。
「え、どうかしましたか?」
そんな三人の様子に紫庵は首を傾げる。


『あー、ごほん。・・・久世君、君は普段何処で仕事をしているの?』
「へ?青藍さんはご存じのはずですよ。三番隊の倉庫の屋根裏です。」
紫庵は目を丸くしながら言う。
『・・・え。あれ、君の定位置なの?』
「はい。そうです。あそこが僕の仕事場です。」


『だってあそこ、普通の隊士は近寄らないでしょ。僕、あそこで昼寝をしていて他人と遭遇したのは君が初めてだったよ?』
「・・・おれ、入隊する前から、霊術院で先輩に苛められておりまして。」
「うん。そうだったね。」


「その、先輩が、三番隊に居たようで。・・・初日に、見つかって、机と椅子を外に放り出されてしまって。おれを指導してくれていた席官が、注意してくれたんですけど。でも・・・。」
『でも?』


「・・・新人の指導期間が終わると、席官の皆さんは通常のお仕事に戻ってしまうでしょう?そうしたら、また、その先輩がおれの机と椅子を外に捨てて・・・。席官の皆様は忙しい身ですし、おれみたいな新人がそう簡単に席官の方と顔を合わせることもなくて・・・。先輩は中流とはいっても貴族でそう簡単に止められるわけもなく・・・。先輩もそれを知っているので、周りの目を気にすることもなくなって。」
紫庵はだんだんと俯いていく。


「おれは、元々、橙晴の傍に居たから、その他の先輩たちからもあまり印象が良くなくて。橙晴が朽木家の者であると最初から知っていて、自分の利益にだけなるように周りにそれを隠して橙晴に近付いたんだって。そんな噂が広まると、同期たちも助けるに助けられない様子で。助けてくれようとする同期も居たのですが、それを見つけた先輩が同期を脅したりして・・・。だから、迷惑にならないように、あそこに移りました。新しい仕事や、任務の命令などは、同期たちが僕に知らせてくれています。それから七席も。」


「・・・はぁ。」
蓮は深いため息を吐く。
「ご、ごめんなさい・・・。」


「君が謝る必要はないよ。・・・なるほどね。だから君は隊舎から逃げるように出ていくわけだ。そして、それを知っている七席は、それを利用して君に仕事を放り投げていると。君を助けようともせずに。そういうこと?」
蓮の言葉に紫庵は静かに頷く。


「そう。」
蓮は頷いて、何かに耐えるように目を閉じた。
『蓮。』
「解ってる。これは僕ら席官の監督不行き届き。ついでにそれを席官が利用しているのだから、大失態ともいうべきことだよ。・・・三番隊の席官は、一新されるかもなぁ。」


「え、そんな!!!蓮さんは、何も、悪くありません!!」
「いや。それに気付くことが出来なかった僕ら上司の責任だよ。」


「・・・紫庵。」
橙晴が静かに名を呼ぶ。
「な、何・・・?」
「・・・この・・・・馬鹿!!!!!」
橙晴はその言葉と共に、拳を振り下ろす。


「痛い!!!」
紫庵は衝撃を与えられた頭を抱えた。
「本当に馬鹿!!!何でそういうこと言わないの!?僕から逃げ回っている場合!?」
「だ、だって、橙晴に、迷惑が、かかる・・・。おれ、嫌だよ、橙晴の、迷惑になるの。」


「そういうことじゃないでしょう!!!迷惑だ何て思わないよ!!!友達が苛められているのに!!!僕に相談してくれれば、ちゃんと、どうにか、したのに!!!!先輩だろうが、席官だろうが、相手が誰であっても、僕は君と戦うのに!・・・僕は、そんなに、頼りないの?」
橙晴は泣きそうに言う。

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