色彩
■ 11.三番隊の第七席

「やぁ、紫庵。」
蓮はそう言って軽く手を上げる。
「れ、蓮さん・・・。何故、こちらに・・・?」


「君に書類を渡し損ねた。逃げるように飛び出していくんだもの。追いつくかと思ったら、何処を通って行ったのか解らないし。」
困ったように微笑みながら、蓮は執務室に入ってくる。


「青藍、これもよろしく。」
『はいはい。』
「橙晴には飴あげる。」
「ありがとう、蓮。琥珀庵のべっ甲飴だ!唯一蓮が作るやつ。不定期販売の、あっという間に売り切れる幻のべっ甲飴。」


「うん。昨日は琥珀庵に居たからね。作ってきたんだ。」
『・・・僕には?』
「ないよ?」
『何で!?』


「あはは。青藍、昨日、一体、何をしたのかな?いや、昨日まで、一体、何をさせられていたのかな?僕、吃驚しちゃったよ。危ないことは一人でやっちゃいけないって、ずっと言っているのに、気が付いたら、青藍、また一人で危ないことをやっているのだから。隊長から聞いて、ちょっと、殴りたい。青藍、本当に馬鹿だよね。」
にこにこと微笑みながら、蓮は拳を固く握る。


『いや、あの、それは、ですね・・・。機密事項、だった、と、言いますか・・・。』
「殴られるのと、説明するの、どっちが良い?あ、それとも、両方が良いかな。」
『!!!』
「ねぇ、青藍?どうする?」


『・・・ご説明させて頂きます。今晩のご予定は?』
「ふふ。もちろん、空いているよ。」
『では、朽木家にご招待いたします。』
「遠慮なく招待をお受けしよう。今晩、じっくりと、話を聞かせてもらおうか。」
『はい・・・。おもてなしさせて頂きます・・・。』


「あの青藍さんが、歯が立たない、だと・・・?」
その様子を見た紫庵は唖然としながら呟く。
「蓮は怒らせたら怖いよ?兄様、何回か本気で怒らせて殴られているからね。ちなみに兄様の友人たちもあのくらい容赦がない。雪乃も含めて。」
橙晴の言葉に、紫庵は涙目になる。


「何泣きそうになっているのさ。だからと言って君を苛めるような人は一人もいないよ。」
「ほ、本当・・・?」
「本当だよ。弱い者苛めとかするような悪趣味な人もいない。そもそもそんなに暇じゃない。兄様の友人たちは大体席官で、席官じゃなくてもある意味出世しているからね。」


「ある意味出世・・・?」
「瀞霊廷通信の編集長補佐。」
「あぁ、なるほど。情報通・・・。」
「ついでに侑李さんは春水さんとも仲良しだよ。編集部の春水さん担当だから。」
「えぇ!?そ、それ、大丈夫なの、おれ!?」
「大丈夫でしょ。あの人、あれで口が堅いから。」


「・・・さて、こっちはこのくらいにして。うちの七席についてだけれども。」
蓮はそういって紫庵に向き直る。
「どうも最近、仕事をしていないようだね。」
「いや、その、そんなことは・・・。」
「なくないよね?」


「・・・。」
蓮にじいっと見つめられて、紫庵は黙り込む。
「沈黙は肯定ととるよ。・・・で、その理由というのがだね、問題なのだけれども。ちょっと、青藍と橙晴に相談。」
「うん?何?」
橙晴はべっ甲飴を美味しそうに舐めながら蓮を見る。


『べっ甲飴・・・。』
青藍は羨ましげに橙晴を見つめる。
それから物欲しげに蓮を見た。
「・・・はいはい。ちゃんと青藍の分もあります。だから相談、聞いてくれる?」


『うん!聞く!』
差しだされたべっ甲飴を受け取りながら青藍は嬉しそうに頷く。
「「・・・単純。」」
そんな青藍を見て、橙晴と紫庵はポツリと呟く。


「流石青藍だよね。説明するから、場所を移動しようか。応接室とか、空いてる?」
『空いているよ。』
「そ。じゃあ、借りるよ。」
『どうぞ。・・・皆、僕らは席を外すよ。父上と恋次さんが帰ってきたらそう伝えておいてね。・・・じゃあ、行こうか。』
青藍は頷いた隊士たちを見て、応接室へと歩き出す。


「・・・それで、相談というのは?」
応接室に入り、皆が腰を落ち着けたところで、橙晴が問う。
「うん。うちの七席が仕事を放棄し始めた理由というのがだね・・・。」


『何なの?』
「何々?」
「・・・。」
青藍と橙晴は興味津々だが、紫庵は困ったように苦笑する。


「・・・うん。紫庵は解っているようだね。」
「はい・・・。」
「簡単に言うと、色恋沙汰に現を抜かしているのさ。」
『何だ。そんな理由か。』
「まぁ、最後まで聞いてよ。・・・その相手がアレなんだよ。」
蓮はそう言ってため息を吐く。


「アレって・・・?」
「・・・・・・梨花。」
蓮は言い難そうにポツリと呟いた。
『「・・・。」』
思わぬ名前に青藍と橙晴は言葉を失う。


『「・・・・・・えぇ!?何故!?」』
そして数秒の沈黙ののちに驚きの声を上げた。
「何故って言われてもねぇ。一目ぼれ、というやつらしいよ。この間、貴族たちが護廷隊の見学に来たでしょ?で、そこに梨花も居たじゃない。それを見て、ということらしい。」


『・・・じゃあもう、くっつければいいんじゃない。』
「そうですね。」
二人は面倒そうに言う。
「あはは・・・。梨花があれの相手をするわけないでしょ。次期当主になってから人を見る目が厳しいんだから。」

[ prev / next ]
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -