色彩
■ 10.噂をすれば


『ふふ。その様子だと、よっぽど橙晴を頼りにしているらしい。それでは、橙晴は見放すことも出来ない。馬鹿な子ほど可愛いし、好きな子ほど苛めたくなる。橙晴はそう言う子だもんねぇ。』
青藍は楽しげに言う。


「そういう兄様は、馬鹿は切り捨てるし、好きな子は甘やかしたい人ですよね。からかって遊ぶのは兄様の愛情表現です。構って欲しいという自己表現です。深冬はよくこんなのを相手にしていられます。」
橙晴は呆れたようにいう。


『深冬だから僕の相手が務まるんですー。ひたすら雪乃を苛めている橙晴よりはましでしょ。その内雪乃にげんこつされるよ?』
「げんこつされるのは兄様でしょう。一体、これまでに何度げんこつされているのやら。」


『まだ片手で数えられるくらいだもん。』
青藍は堂々と言う。
「自慢げに言うことじゃありません。・・・紫庵、君もそろそろ離れてくれるかな。鬱陶しい。」


「鬱陶しい!?酷い!会いに来いって言ったの、橙晴なのに!!おれ、胃が痛くなりながら、ちゃんと来たのに!!」
涙目になりながら、紫庵は抗議するように言う。


「五月蝿いな。・・・蓮に言って、これから六番隊への書類は全部紫庵に配達してもらうことにしようかな。」
「!?」
ぼそりとそう言った橙晴に、紫庵は慌てて橙晴から離れる。


「だ、駄目だよ!?やめてね!?六番隊に書類を持っていきたい人は、たくさんいるんだよ!?橙晴とか青藍さんとか、朽木隊長とかを見たい人が沢山居るの!!!」
「だから君に頼もうとしているんじゃないの。僕らは動物園の動物じゃないんだよ。」
『あはは。橙晴は野生の狼だもんねぇ。』


「人のこと言えるんですか?」
楽しげに言った青藍を橙晴はじとりと見つめる。
『僕は室内飼いの子犬だもの。』
「「絶対嘘だ!」」


『おやおや、久世君も僕をそう見ているわけだ?』
「うわ、しまった。心の声が・・・。でも、野生の狼というより、野生の黒豹って感じだなぁ。眠っているのを邪魔したら怖そう・・・。」


『・・・うん。心の声がそのまま声に出ているよ。』
「あぁ、ごめんなさい・・・。おれ、いつもこうで・・・。」
青藍に苦笑されながら指摘されて、紫庵はシュンとなる。


『なんていうか、君は、気の強い栗鼠って感じだねぇ。』
「確かに。捕食者の前にわざわざ出ていく馬鹿な栗鼠です。気を付けないと食われるよ?」
「橙晴、辛辣!でも、食べられるのは嫌!!」


『あはは!まぁ、面白い子だねぇ、君。前から思っていたけれども。この感じなのに仕事が出来るから凄いけど。この書類も君が作ったみたいだし。』
「!?ちが、違いますよ!?それは、うちの七席が・・・。」


『嘘。これは君の字。本来ならば、七席がやるべき仕事だ。・・・なるほど。三番隊の七席は、部下に自分の仕事を押し付けているらしい。これは、蓮に報告かな?』
「!!!!」
にっこりと笑った青藍に、紫庵は目を丸くする。


「へぇ。それは面白いですね。三番隊の七席と言えば、どこぞの中流貴族では?」
『そうだったかもしれないねぇ。まぁ、蓮に言っておけば、大丈夫じゃない?蓮の妻である玲奈さんは養子とはいえ、上流貴族漣家の方だからね。それを使わなくても、蓮一人でどうにか出来るけれど。』


「そうでしょうね。何せ、蓮、ですから。」
『そうだね。あの、蓮、だからね。』
青藍と橙晴はそう言って愉しげに微笑む。
それを見て、紫庵は再び顔を青くした。


「だ、駄目ですよ!?そういうのは、いりません!蓮さんにも、言う必要は、ありません!」
『蓮なら、言わなくても解っていると思うけどね。この間、仕事をしない席官なんていらないよね、と、笑顔で言い放っていたから。』
「あぁ、そんなことも言っていましたね。では、時間の問題でしょう。」
「だ、それは駄目ですー!!!!どうにかして止めてください!!!」


「・・・それは無理かなぁ。」
叫んだ紫庵の後ろから、そんな声が聞こえる。
紫庵はびくりとその身を震わせて、恐る恐る振り向いた。

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