色彩
■ 9.紫庵の来訪

翌日。
「し、失礼、します。三番隊、久世、です。・・・だ、橙晴・・・朽木五席は、いらっしゃいますか・・・?」
六番隊の執務室の扉に張り付くようにして、恐る恐る中を覗く者が一人。
それを見た橙晴は、大きなため息を吐いた。


「いるよ。見えているでしょ。早く来なよ、紫庵。三秒以内。」
「さ、三秒!?いく、行くから、ちょっと、待って!」
紫庵は慌てて橙晴の机に駆け寄る。
「よし。」


「だ、橙晴!おれ、怖かった・・・。」
「何が怖いのさ・・・。残念ながら六番隊には君を苛めるほど暇な隊士はいないよ。何せ、兄様の「教育」が行き届いているからね。」
「教育・・・?せ、青藍さんの・・・?」
びくびくとしながら紫庵は青藍を見る。


『ん?どうしたの、久世君。』
「うわぁ!?こっち見た!!いや、その、お疲れ様、です・・・。」
青藍に見つめられて、紫庵は橙晴に隠れながら言う。
『え、僕、何か怯えられている・・・?』
その様子に青藍は首を傾げる。


「そりゃあ、昨日の兄様は怖かったですからねぇ。僕、あの場で兄様が首を切り落とすのではないかとひやひやしました。」
『そんな訳ないじゃない。あそこで首を切り落としたりしたらお店にご迷惑がかかるでしょ。』


「迷惑を考えるならあれを外に出してから暴走させて欲しかったですね。どっちにしろ営業妨害じゃないですか・・・。」
『その辺は睦月が適当に頭を下げているさ。で、久世君は何をしに来たの?』


「あ、その、昨日の、書類を、届けに・・・。あと、だ、橙晴が、六番隊に来いって。」
青藍に書類を差し出しながら、紫庵はチラリと橙晴を見る。
『へぇ。橙晴が苛めるの?』


「そんな訳ないじゃないですか。お仕置きです。このお馬鹿な紫庵君は入隊してから数年間僕から逃げ回ってくれていたので、堂々と友人だと言ってやろうかと。大体、そんなだから苛められるんだ。もっと堂々としていればいいのに。」
「う・・・。」
橙晴に言われて、紫庵は反論が出来ない。


『それは、橙晴が苛めているのと変わらない気が。・・・まぁ、六番隊の皆は苛めたりしないよね?』
にっこりとそう言った青藍に、その場に居た隊士たちは首がもげそうなほど頷く。
『ほらね?だから、大丈夫だよ。』
「・・・兄様、一体、彼らに何をしたのですか。」


『何もしていないよ?大体、三番隊にだって蓮が居るじゃない。蓮は苛めとか見ると笑顔で黙らせるよ?』
「え・・・?蓮さんは、優しいですよね・・・?」
紫庵は不安げに青藍を見る。


『ふふ。そうだねぇ。蓮は優しいよ?優しいからこそ、苛めなんか許さない。』
「蓮が優しいだけだと思わない方がいいよ。あの人、結構アレだから。兄様の友人をやっているくらいだから相当だよ。」
「え?そうなの・・・?あんなに優しいのに・・・?」
「そうなの。優しいのは微笑みと口調だけだよ。」


『イヅルさんと一緒にローズさんを机に縛り付けているんだよ?知らないの?』
「・・・縛り付ける?隊長を?」
『「そう。」』
紫庵は頷いた二人を見て、顔を青くする。


『あはは。そう怯える必要はないさ。僕よりは優しいから。』
「・・・兄様より優しい人がこの世の大半を占めていますけどね。」
『五月蝿いよ、橙晴。君はその少数派の一人でしょう。』
「何言ってんですか。昨日のご自分を振り返ってみるとよろしいかと。正真正銘の悪魔でしたよ。」


『そりゃあ、相手が悪魔だったのだから仕方ない。』
「そのくせ深冬にだけべた甘。狙われているから隠したのではありませんよね。見せたくないから隠したんです。その内本当に閉じ込めそうですよね。」
橙晴はそう言ってため息を吐く。
「閉じ込め・・・だ、それは、たぶん、駄目です!」
紫庵はそう言って泣きそうになりながら青藍を見つめる。


『あはは。そんなことはしないよ。深冬が嫌がるもの。・・・それにしても、君、弱気なのか強気なのか解らないよねぇ。泣きそうになりながらもちゃんと意見を言うあたり、面白いけど。』
そう言って青藍はしげしげと紫庵を眺める。


「いや、その、あまり、見て、楽しいものでは、ないかと・・・。」
じりじりと橙晴の後ろに下がって、紫庵は困ったように眉を下げた。

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