色彩
■ 8.美しき夢の果て

「一体、何が・・・。」
橙晴は唖然としたように呟く。
青藍たちもまた、唖然として玄奘を見上げた。
咲夜以外は。


「・・・お帰り、深冬。よくやった。」
「咲夜様。」
「流石、夢を司る斬魄刀だ。」


『夢?』
「相手を傷付けるのには向かないが、あれでは夢からは起きられないだろう。見たい夢を見ているのに、起きようとするものなどいないのだから。玄奘は今、夢の中に居るのだ。自ら醒めようとしない限り、あれはあのまま。そして・・・。」


咲夜がそこまで言うと、刑軍が姿を見せる。
玄奘を囲むようにして彼らは一斉に抜刀した。
次の瞬間。
その刃は一斉に玄奘の体を貫いたのだった。


「・・・夢を見たまま、死にゆく定め。」
咲夜はその光景を見ながら、そう言葉を零した。


「美しい夢を見るほどに、その身は滅びていくのだよ。もし、夢から覚めたとしても、そこにある現実は、美しい夢と比べれば絶望だろう。果たして、それに耐えられる者が、どれほど居るというのか。・・・少なくとも、私は耐えられないだろう。今あるこの幸せが、もし、夢だったのなら・・・私は、今度こそ世界を壊すだろう。」


『美しいものは、残酷ですね。心を捕えて離さないくせに、手に入るとは限らないのですから。手を伸ばして掴み取ったと思ったら、するりと手から抜け出してしまう。』
「そうだな。・・・深冬。君はそんな顔をしなくていい。あれは、君のせいではないのだから。君は、死神としてやるべきことをやっただけ。いいな?」
咲夜は深冬の頭を撫でながら、言い聞かせるように言う。


「・・・はい。」
深冬はその表情に苦々しいものを含みながらも、小さく頷いた。
青藍はそんな深冬の手を握る。
『・・・巻き込んでしまって、ごめんね。』


「それはいい。私の方こそ、あまり見ていて気持ちのいいものではなかっただろう。」
深冬は俯く。
『まさか。とても美しい斬魄刀だった。』
そう言って青藍は深冬の頬に手を添える。
『深冬。これが僕らの道だよ。この先もきっと、こんなことがあるよ。でも、二人で背負って行けばいい。だから、泣きたいのなら、泣いていい。僕が受け止めよう。』


ぽた、り。
青藍に言われて、俯いた深冬の瞳から涙が零れ落ちる。
一度溢れてしまった涙は止まらない。
ぽたぽたと、次から次へと零れていく。
泣き始めた深冬を青藍は抱きしめた。


『大丈夫だよ。僕らは一人ではない。だから、大丈夫。』
「うん・・・。」
青藍の言葉に深冬は小さく頷く。
『僕は君のそばに居るよ。安心していい。』
安心させるように言う青藍に腕を回して、深冬は暫くの間泣いたのだった。


「咲夜。」
青藍と深冬を見つめながら、白哉は静かに咲夜を呼ぶ。
「何だ?」
呼ばれた咲夜は白哉の傍に寄った。
「話で聞いた以上ではないか。」


「そうか?・・・まぁ、あまり人前で見せる能力ではないだろうが。」
「そうだな。あの様子では、暫く始解することもしないだろう。」
「だが、それも乗り越えなければならない試練だ。・・・私たちがそうだったように。」
咲夜は少し切なげに言う。


「あぁ。それが、死神としての、朽木家としての、定めだ。」
白哉はそう言いながら咲夜を抱き寄せた。
「私たちは、見守ることしか出来ない。あれらの道は、あれらが拓かなければならぬ。」
「あぁ。そうだな。」


「・・・さて、俺たちは片づけだな。松本!!」
「なんです、隊長?」
呼ばれて乱菊は姿を見せる。
「お前は橙晴と一緒に、彼奴らを帰して来い。」
冬獅郎はそう言って橙晴の同期たちを指さす。


「はぁい。行くわよ、橙晴!」
乱菊は頷くと同時に橙晴の腕を掴んで急降下する。
「うわ!?」
「口開けてると舌噛むわよ。」


「!!!!」
乱菊に言われて橙晴は口を閉じた。
「ふふ。いい子ね。さて、アンタたち!シャキッとしなさい!それでも死神の端くれでしょ!帰るわよ!!!」


「・・・あー、これ、修理代は何処持ちで?」
睦月はため息を吐きながら元柳斎に確認する。
どんな答えが返ってくるかは解っているのだが。
「朽木家に決まっておろうが。」


「一応、護廷隊命だったかと思うのですが?」
「誰も建物を吹き飛ばせなどというておらぬわ!さっさと行け。」
元柳斎は当然だとばかりにそう言い放ち、睦月を追い払うように手を振る。


「護廷十三隊って本当にケチですよね。まったく、朽木家が関わったものは全部朽木家持ちなんですから。お蔭で俺は修繕費の計算で忙しくて仕方がない。他にも謝罪だの何だのであちこち駆け回ることになりますしね。」


「何か文句があるか?」
「いえ、別に。ただの独り言です。・・・仕方ない。行きますか。」
元柳斎にじろりと睨まれた睦月はそう言って修理の手配のために朽木家へと向かったのだった。

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