色彩
■ 7.幽冥

『ふう。こんなものですかね・・・痛い!!!』
雲を集め終えた青藍に何者かが衝突する。
『痛いです、母上・・・。』
「すまんな。ちょっと勢いを殺し損ねた。」
『そういう時は父上に抱き着いていただけると・・・。』


「あはは!・・・さて、一体、君たちは何をしているのだ?」
咲夜は青藍から離れて首を傾げる。
『母上。とりあえず、あれに、黒棺でも打ち込んでもらえます?出来れば、白刃と黒刃と同時に。どうやら心を映す鏡になっているようでして、下手に近付くと危ないと言いますか・・・。』


「なるほどな。橙晴はともかく、青藍はやめた方がいいだろう。」
「え、母上も酷い!皆して同じこと言うんですよ!?僕はともかく、って!」
「そうか。まぁ、その通りだな。」
「そんな!?」


「そんな顔をするな。悪い意味ではないぞ、橙晴。とりあえず・・・白刃、黒刃。行くぞ。」
「「はーい!」」
咲夜に続いて白刃と黒刃が飛び上がる。


「「「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる、爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ・・・破道の九十、黒棺!!!!」」」
詠唱とともに、巨大な霊圧が玄奘を包み込む。
三人の黒棺が結合して一つの黒棺を成す。


『まさかの完全詠唱・・・。』
青藍はその霊圧の大きさに唖然としながら呟く。
「・・・どうだ?」
咲夜は降りてきて様子を伺う。


『あはは。どうでしょうねぇ。あれで無傷とかだったら、僕ら、生き残れる気がしません。』
「さっき何かが割れる音がしたから、無傷ではないだろう。」
『そうなのですか?そのまま鏡が粉々に割れてくれると助かるのですが。』


「そうだな。・・・で、冬獅郎と橙晴は一体何をやっているのだ?」
咲夜は怪訝そうに橙晴の額に手を当てている冬獅郎を見る。
二人は何やら言い争っている。


『あぁ、十五夜様の虚像を作っているのです。玄奘はどうやら十五夜様に恨みがあるらしいので、その虚像を壊すことでどうにか落ち着いて頂けないかと。・・・何やら難儀しているようですねぇ。』
「なるほどな。それならば、深冬の力を使えばいいのではないか?」


『へ?』
「何だ。知らないのか。まぁ、良い。・・・深冬!!!こちらへ来い!!」
咲夜に呼ばれた深冬はすぐさま二人の傍に現れる。


「なんでしょうか?」
「黒棺の攻撃が終わる前に、あれの周りに夢をめぐらせろ。出来るな?」
「ですが、私は、斬魄刀を持ち合わせておりません・・・。」


「そうだったな。・・・幽冥。私の手の中に来い。」
咲夜が言うと、小振りな斬魄刀が現れる。
「ほら、これでいいだろう。」
そういって咲夜は深冬に斬魄刀を差し出した。
深冬は不思議そうにしながらもそれを受け取る。


「一体、どうやって・・・?」
「ははは。まぁ、それは後で青藍にでも聞くといい。もちろん、これも他言無用事項だが。」
『そうやって、説明を丸投げしないでくださいよ・・・。』


「いいではないか。ほら、深冬。修行の成果を見せてやれ!」
「はい!」
深冬はそう言って飛び上がる。
青藍はそれを不安げに見つめた。


「そんな顔をするな。深冬は私の教え子だぞ。その辺の席官よりは腕が立つ。」
『それは、解っているのですが・・・。』
「いいから黙って見ておけ。信じるのも君の務めだ。」
『はい・・・。』


上空へと飛び上がった深冬はすらりと斬魄刀を抜いた。
確かめるように振り下ろしてから、玄奘の方をひたと見つめる。
そして深呼吸をすると、刀を構えた。


「・・・夢に誘え、幽冥!!」
解号と同時に深冬の霊圧が上がる。
深冬の斬魄刀は錫杖の形に変化し、その先端の輪には鈴が連なっている。


しゃらり。
深冬が錫杖を構えると、そんな清らかな鈴の音が響く。
しゃら、しゃら、しゃら。
誰もが聞き惚れるような美しい音である。
そんな音を出しながら、深冬は玄奘の周囲を駈ける。
一周すると、その場に鈴の音が満ちた。


「・・・秋ノ夜長!」
そういうと同時に、トン、と柄で軽く地面を叩くようにする。
それに感応するように鈴の音が一斉に鳴り響いて、波紋が消えていくように、静かに音が消えていく。
それと同時に、咲夜の放った黒棺が役目を終えて消えた。
中から出てきた玄奘の体にはあちらこちらに罅が入っている。


「・・・おぉ、ここは、霊王宮。」
出てきた玄奘はそう言ってあたりを見回す。
「これは霊王の玉座。そして、その隣には、私の・・・。」
ぶつぶつと何かを呟きながら、玄奘はふらふらと歩き出す。


「十五夜が・・・あの十五夜が・・・居ないぞ・・・!ははは!!!私は、戻ってきた!戻ってきたのだ!!!」
玄奘はそんなことを叫びながら笑う。
次第に、玄奘の体は元の姿に戻っていった。


「おやすみなさい。良い夢を。」
深冬はそんな玄奘の姿を一瞥して、斬魄刀を鞘に納める。
そして、静かに青藍たちの元へ降りてくる。

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