色彩
■ 3.元霊王宮筆頭家臣

「・・・兄様、最初からこのつもりでしたね?」
それを受け取りながら、橙晴は呆れたように言う。
『あはは。まぁね。騒がせて悪いとは思ったのだけれどねぇ。ちょっと、被っちゃってね。これは予想外だったのだけれど、使わせてもらおうと。』


「・・・はぁ。まぁ、いいですよ。こちらはお任せを。」
『よろしく。僕が襖を開けると同時に防御の結界に切り替えるんだよ。』
「了解です。ほら、紫庵。君も結界を張って。・・・他の皆も悪いけれど、結界の強化をお願いするよ。多分、これからここは危険地帯になるから。」
橙晴に言われて皆が動き始める。


『それから、睦月は私の隣に。居るだけでいい。』
「それは、当主の命令ですか?」
『そうだ。そばに居る「だけ」でいい。後は何もするな。その内「護衛」がこちらに来る。』


「了解いたしました。」
『行くよ、睦月。』
青藍はそう言うと結界を解いてから、隣の部屋へと続く襖を開け放ったのだった。


その瞬間、青藍に向かって鬼道を纏った刃物が飛んでくる。
しかし、それは青藍に当たる直前で何かに弾かれたように進路を変えて畳の上に突き刺さる。
青藍は自分の正面に結界を張っていたのだ。


『おや、そちらから呼んでおきながら、随分と手荒い歓迎ですねぇ。』
「・・・どうやら、本物のようだな。」
部屋の奥からは、低い男の声が聞こえる。
『本物ですよ。私が、朽木青藍にございます。』
青藍はニコリと微笑む。


「そうか。噂通りの顔らしい。女より、美しい顔。」
『それでも私は男です。・・・そちらこそ、噂に違わぬお顔のようですねぇ。』
「噂?まさか。十五夜から聞いたのだろう。」
『えぇ。お聞きいたしましたよ。それとなく。黒檀の髪。黒曜の瞳。左頬には花の痣。稀代の色男というお話でした。』


「ふん。気に入らない男だ。」
『そうですか?あの方が容姿を褒めるのは珍しいことですが。何せ、あの方自身が相当な色男ですので。』
「十五夜のことを言っているわけではない。お前だ。」


『私、ですか?』
青藍は惚けるように言う。
「あちらは、お前の噂で持ちきりだ。朽木家の若き当主。安曇の一族からの襲撃にも対応する美しき化け物。そして、愛し子だとか。」


『おやおや、随分な評価を頂いているようで。私は一介の貴族ですのに。まぁ、それが、気に入らないのでしょうね。・・・元霊王宮筆頭家臣、春日井玄奘。』
青藍は言いながら彼を見つめる。


『漣十五夜に蹴落とされ、その後も霊王宮に務めるも、暫くして霊王宮からも追放された男の名です。』
「昔の話だ。」
玄奘は吐き捨てるように言う。


『そうですか?では、何故私にご連絡をされてきたのでしょうねぇ。』
「・・・。」
全てを解った上でそう言っている青藍を、玄奘は睨みつける。


『ふふ。そんなに怖いお顔をなさらずともいいではありませんか。玄奘様は霊王宮にお戻りになりたいのではありませんか?自らの地位を奪い取り、尚且つ追放という不名誉を与えた漣十五夜が妬ましい。恨んで、恨んで、恨み続けている。更には、己には見向きもしなかった赤い瞳の一族が漣十五夜に傅いているのが許せない。もっと言えば、あれらに愛し子と呼ばれる者が私のような者であることが気に入らない。・・・違いますか?』
青藍は楽しげに言う。


「・・・やはり、気に入らない男だ。」
『えぇ。そうでしょうね。それでも貴方はもう、私に頼るしかない。いや、私を使うしかない。今の貴方に霊王宮と連絡を取る術はない。貴方と霊王宮との繋がりは、一月ほど前に十五夜様が全て断ち切りましたからね。』
なおも楽しげな青藍に、玄奘は不愉快そうな顔をした。


『それに、その身は崩れ始めておられるのでは?あちらとこちらでは時の流れが違います故。こちらで千年以上生きれば、そろそろその身が持ちますまい。霊王宮で長く生きた分、こちらに来ると体が脆くなる。霊王様の加護でもあれば別でしょうが、貴方は加護を持たない。』
その言葉に玄奘は小さく笑う。


「そうでもない。体を保つ方法は幾らでもある。」
『ですが、それにも限界がある。限界が近い故に、貴方は焦って行動を起こした。』
確信を持っていわれて、玄奘は言葉に詰まったようだった。


『ふふ。・・・私が、力を貸しましょうか?私も十五夜様には思う所がありまして。』
極上の笑みを浮かべながら、青藍は悪魔のように囁く。
そのささやきに応えようとする体を抑えながら、玄奘は青藍を睨みつけた。
「悪魔め・・・。」


『よく言われますねぇ。十五夜様に少々思う所があるのは本当ですよ?・・・ですが、この身はそれほど安くありません。もちろん、私の妻である深冬も。』
青藍はそう言って笑みを消す。
『簡単に利用できると思わないことです。』
そんな冷たい声がその場に響き渡る。

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