色彩
■ 49.様々な憶測

『あ、そうそう。そう言えば、私と深冬に関する噂があるようでして。』
青藍は皆に聞こえるように言う。
皆はぎくり、とその身を固くする。


「ほう?どんな噂だ?」
『私が色の珍しさ故に、深冬を娶ったと。それに飽きて楼閣通いをしているとか。』
「ははは!それが出来るそなたではあるまい。その方面に関しての器用さはないだろう。」
安曇は声を出して笑い、可笑しそうに言う。


『えぇ。確かに楼閣に足を運んでは居りますが、あれは楼主との契約がありまして。私はそれを遂行しているだけなのですが。それに・・・我が父は流魂街から妻を娶るという掟破りを敢行するようなお人ですからねぇ。その後、我が母を娶るためにも、蜘蛛の糸を張って待ち構えたとか。』
「咲夜も咲夜で白哉しか見ておらぬ。あの二人の子が色の珍しさだけで正妻を迎えるものか。それに、朽木家の妻はそれほど安いものではなかろう。」


『本当に。確かに安曇様に似た紅色の瞳と銀色の髪は大変美しいものです。ですが、それだけで選び、飽きたから次の者を手に入れようなどと、そんなことが出来るほど、朽木家当主というのは生易しいものではありませんので。もしそんなことをすれば、我が朽木家の家臣は、私の命令に指一本動かすことはないでしょう。それに・・・。』
青藍はそこで言葉を切る。


『それに、安曇様が義父になるのですよ?並みの覚悟では引き受けられません。深冬を邪険にすれば、この私すらも安曇様のお力で消されてしまう。もっとも、安曇様は私が深冬を心から欲していることをよく御存じですが。』
青藍は楽しげに微笑む。


「そうだな。そなたは深冬が欲しくて仕方がなかった。私は霊王宮の者故、それが知れれば面倒事に巻き込まれる。それでもいいと、それでも霊王宮の力を欲することなく、全てを守り抜いてみせるという覚悟を私に示したのだ。それ故、私はそなたらの婚姻を認めた。深冬も深冬で、そなたを選んだ。」


「青藍様、本当に嬉しそうでございましたものね。」
「そうだな。私の当主引き継ぎの儀のせいで祝言が先延ばしにされて恨み言を言われたくらいだ。」
実花と豪紀は呆れたように言う。


「祝言の日など、親しい者しかいない場では見ているこちらが恥ずかしいほどであったな。」
「「えぇ。」」
安曇の言葉に二人は頷く。
深冬は気まずげに目を逸らした。


「もっとも、それは今もだが。」
「えぇ。そうですわね。何故そのような噂が流れるのか、不思議なくらいですのに。」
「青藍殿はそのあたりを隠すのが上手い。何故隠しているのか疑問だったが、先ほどの様子からすると、どうやら深冬を見せたくないらしい。」
「なるほどな。大切なものは宝箱にしまっておくということか。」


「まぁ、それは深冬も同じなのでしょう。例えば、このあたりとか。」
豪紀はそう言って自分の鎖骨の下を軽く指で叩く。
「この間、青藍殿が「治療」されている時に、チラリと見えて、こちらが驚いた。」
深冬にからかうような視線を向けながら豪紀は言う。
視線を向けられた深冬は顔を赤くして、その視線から逃れるように、顔を背ける。


「深冬様も大切なものは宝箱の中、ですのね。」
「そうだな。そう言えば私も見た。父としては複雑だ・・・。どうせ、青藍がそうさせているのだろうが。それで楽しんでいるのだな?まったく、腹立たしい息子だ。」
安曇はじろりと青藍を見つめる。


『・・・降参しますから、それ以上はやめて頂けませんか。よからぬ想像を招きます。想像されるだけでも気持ちのいいものではありません。』
青藍は嫌そうに言う。
「事実だろうが。」


『いいんですよ。深冬は安曇様の娘ではありますが、私の妻なのですから。』
「開き直りおった。」
『何か問題がありますか、父様?妻を愛して何が悪いのです?』


「そこは白哉に似たのだな・・・。まぁ、よい。・・・さて、帰るか。そなたらも来るか?」
問われた豪紀と実花は伺うように青藍を見る。
『顔見せは終わったのだから我が邸に来るといい。今日は茶羅が邸に居る。実花姫が来られれば喜ぶ。』


「そうですの?では、私、行かせて頂きますわ。豪紀様もこの後お暇でしょう?」
「あぁ。」
「そうなのですか?それならば、豪紀兄様もご一緒に。」
深冬はそう言って豪紀に笑みを向ける。


「そうか。・・・では、私もお誘いをお受けいたしましょう。」
『ふふ。それでは、私どもはこれにて。』
そう言って一礼した青藍に続いて、深冬、豪紀、実花もまた一礼する。


「では行こう。・・・今日の菓子は何だ?」
『本日は琥珀庵の大福にございます。各種取り揃えてございますよ。』
「うむ。それはいい。あるだけ出せ。」


『それから、琥珀庵の試作品も届いております。今回のものは、茶羅の意見を取り入れたとか。燿さんが、感想を、とのことです。』
「ほう。それは楽しみだな。燿ということは、洋菓子だな?あれは美味い。」
安曇は楽しげに言う。


「相変わらずですわねぇ。」
「菓子で出来ているから仕方ないだろう。」
「豪紀兄様の言う通りです。父様はお菓子で生きておりますので。」
世間話をしながら去っていく五人に、貴族たちは暫く呆然としたのだった。
その後、尸魂界全土に深冬の親が霊王宮の者であるという話と、青藍の思惑に関する様々な憶測が飛び交ったらしい。



2016.11.29 彩雲編 完
〜玄奘編に続く〜

この彩雲編で、咲夜さんは漸く己の闇に打ち勝ちます。
輝きを増した咲夜さんに、白哉さんはさらに彼女に心を奪われることでしょう。
青藍も、深冬の素性を明らかにすることで(美央については隠したままですが)、彼女の守りを固めていきます。
次回、玄奘(げんじょう)編。
深冬が始解をする、ということだけお教えしておきます。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

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