色彩
■ 48.概ねそのように

『・・・して、今日は何用でしょう?数日前にもいらしておりましたよね?』
「特に用がある訳ではないのだが、時間が空いたので来てみたのだ。最近下僕が仕事を覚え始めてな。あと数百年も経てば、私も引退できるかもしれぬ。」
安曇は嬉しげに言う。


『それはそれは。安曇様と十五夜様の教育の賜物にございましょう。下僕のお二人はさぞ扱かれたのでしょうねぇ。』
「深冬と青藍に手を出しておいて、命があるだけましだろう。まぁ、下僕としては有能だ。暫く使ってやるとしよう。」


『容赦がないですねぇ。』
「そうそう。この間のあれも下僕になったぞ。ついでに婚約も破棄してやった。」
『あらら。それは私の楽しみがなくなってしまいましたね。安曇様を貞操の危機に追い込もうとしておりましたのに。』
自慢げに言った安曇に、青藍は詰まらなさそうな顔をする。


「容赦がないのはどちらだ・・・。私より酷いぞ・・・。」
それを見た安曇は、怖いものを見るように青藍を見つめる。


『そうですか?「安曇様のお蔭で」心臓を直接掴まれるという貴重な経験をさせて頂いたのですから、このくらい普通ですよ。隊長格数名を動員いたしましたし。さらに言えばその隊長格は総隊長の招集を無視して来られたので、総隊長へのご説明も引き受けさせて頂きました。この私が。』
青藍は清々しい笑みを浮かべる。


「そなた、実はまだ根に持っているのだな?そうなのだな?」
『ふふ。まさか。私は許すと言ったではありませんか。』
「口で言っているだけで、心から許しているわけではないと、そう言っていたのは誰だったのか・・・。」


『嫌ですねぇ。二週間の菓子禁止令でお許ししましたでしょう。』
「あぁ・・・あれはもう・・・やめてくれ・・・。」
『それは安曇様しだいですねぇ。二週間で禁止令を解いたのも、安曇様の下僕たちが必死の形相でこの私に頭を下げに来たからなのですよ?』


「私は三日で死にそうになったからな・・・。」
『十五夜様からも、いい加減安曇様が死ぬ、という連絡がありました。私としても義父を死なせるのは忍びない。それ故私は寛大な心で安曇様を許すことにいたしました。』
「寛大・・・いや、まぁ、そうだな。寛大、だな・・・。」
不満げに青藍を見た安曇は、青藍に怖いくらいに微笑まれて、気圧されたように頷く。


『そうでしょう?・・・それで、何故邸ではなくここまでいらしたのです?』
「そうだった。・・・白哉と十五夜の爺が六番隊の隊舎を破壊している、ということを知らせに来たのだ。副隊長の男は顔を青くして仲裁に入ることも出来ないようだったが、咲夜と響鬼はそれを楽しげに眺めるばかりでなぁ。巻き込まれると面倒故、逃げてきたのだ。」
他人事のように、安曇はのんびりという。


『・・・それは大変ですねぇ。まぁ、橙晴が何とかするでしょう。修理の依頼だけしておきます。私どもは邸に帰ってお茶でも飲みましょう。』
青藍もまた他人事のように言った。
その発言に貴族たちは内心で戸惑っているのだが、二人がのんびりとしているようなので、自分たちが心配する必要はないのだろうと、納得する。
実際は、それほど優しいものではないのだが。


「そうだな。私たちはゆっくりしていれば良いのだ。それにしても・・・。」
『何です?』
「そなたらはこのような場でもいつもそのように手を繋いでおるのか?」
繋がれた手を見て、安曇は呆れたように言う。


『あはは。そんなことはございませんよ?まぁ、先ほどちょっとあったものですから。』
「ちょっとあった・・・?」
『えぇ。大したことではございません。お気になさらず。』
言われて安曇は周りを見回す。
そして怯えている男を見つけて、何となく事情を察したのだった。


「相変わらず怖い男のようだな。あれでは私が出る必要もあるまい。なぁ、深冬?」
安曇は言いながら深冬の頭を撫で、深冬は大人しく撫でられながら頷いた。
『安曇様が出てこられたから怯えているのですよ。安曇様が霊王宮の方であるとお話したばかりなものですから、余計に。』


「それならそれで、私をどう説明したのか聞きたいものだな。化け物だ、とでも言ったか?」
『ふふ。嫌ですねぇ。心強い義父だと説明いたしましたよ、私は。』
微笑みながら言う青藍に、安曇は胡散臭げな視線を向ける。
そして、問うように豪紀を見た。


「・・・概ね、そのように説明しておりましたよ。」
「えぇ。概ねそのように。」
豪紀の言葉に実花が頷く。
「概ね、か。まぁ、化け物と言われようと、否定はできぬ故、構わぬが。」
安曇はどうでも良さそうに言う。

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