色彩
■ 45.嘘のような本音

「しかし、それでは、何故深冬様はこちらにいらっしゃるのです?霊王宮に居られるのが普通なのでは?それに・・・青藍様方を襲った者たちが、深冬様を・・・禁忌・・・だとかおっしゃられておりましたが・・・。」
言いづらそうに問われて、青藍は苦笑する。


『それは、深冬の母が安曇様の一族の者ではないからでございます。安曇様の一族は一族内の婚姻が掟でございまして、一族に認められるには両親ともに一族の者であるが条件なのです。それから外れたものは、一族から認められず、霊王宮に住まうことが出来ません。』
「なるほど。」


『それ故、ひっそりと、深冬の母が彼女を育てていたのですが、深冬の母が亡くなり、彼女は庇護を失いました。しかし、かといってお忙しい安曇様がお育て出来るわけでもなく、困った末に、こちらにお預けになったのです。霊王宮での諍いに巻き込まれるよりは、こちらで親元を離れて暮らす方がいいだろうという安曇様のご判断にございます。』


深冬の母親が何者か、という説明を抜いた説明に、豪紀はじろりと青藍を見る。
実花もまた、その視線が、青藍様の嘘つき、と言っている。
・・・まぁ、嘘は言っていない。
話の流れから、皆が深冬の母も霊王宮に住まう者だと思っているだけで。
そんな青藍の思考を読んだかのように、二人から呆れた視線が投げられる。
それを素知らぬ顔で躱して、青藍は微笑み続ける。


「・・・なるほど。そういう経緯があったのですね。それでは、朽木家が深冬様をお迎えになるはずでございます。霊王宮と繋がりが出来るのならば、皆が深冬様を欲しがる。朽木家もまた、その一つであったということですな。」
長老にそう言われて、青藍は笑みを深める。


『おや、そう見えますか?』
「違うのですか?」
『まさか。そんなつもりはございません。我が母は漣家の者です。漣家には漣十五夜という霊王宮の大物がいらっしゃいます。十五夜様は霊王宮の筆頭家臣であらせられるのですよ?つまり、霊王宮で霊王様の次に偉いということです。今更、霊王宮との繋がりを作る必要がありましょうか。』


青藍にそう言われて、貴族たちは首を傾げる。
確かにそうだ。
では何故、深冬を娶ったのだろうか。
そんな疑問が聞こえてくるようだ。


『私が欲しかったのは、霊王宮との繋がりでもなければ、加賀美家との繋がりでもありません。霊王宮には十五夜様が、加賀美家には豪紀殿がいらっしゃるのですから。婚姻を結ばなくとも、繋がりはある。つまり、私が本当に欲しかったのは、深冬、ということです。』
悪戯っぽく言った青藍に、貴族たちは半信半疑の目を向けたのだった。
豪紀と実花は、それが本気であると解っているために苦笑いだったが。


あぁ、面倒臭い。
青藍が安曇について説明している頃、深冬は内心でうんざりしていた。
「青藍様とは普段何をなさっておられますの?」
「青藍様とは順調なのですか?」
「お子の予定はございますの?」


青藍との仲を疑われているのだろう。
私は、傍から見れば、まだ幼いらしい。
そんな私に、紳士な青藍が手を出すとは、考え難いようなのだ。
幼女趣味という噂も、まぁ、なくはないのだが。


・・・紳士かどうかは、絶対に怪しいだろう。
その辺の姫をあっさりと公開で振るような奴なのだから。
何故、青藍が優しいと思えるのか・・・。
深冬は内心で呟く。


そもそも普段の青藍について話したところで、彼らに信じてもらえるとは思えない。
貴族相手にはあの姿しか見せないのだから。
・・・猫被りの嘘つき。
そのくせ泣き虫で弱くて、へたれなのだ。
それが可愛いと思うのも事実ではある。
いや、まぁ、可愛いと思うと、突然獣になるから注意が必要なのだけれども。


何故あの作り物の笑みに皆が騙されるのだろうか。
チラリと青藍に視線を向けながら、深冬は内心で呟く。
あぁ、本当の笑みを見たことがないからか。
それでは仕方がない。
もっとも、目の前にいる彼らは、一生見ることが敵わないだろう。
それなのに青藍を知った気でいるのだから、見る目がないとしか言いようがない。

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