色彩
■ 43.銀色の秘密

「ところで、青藍様?そろそろ、本音をお聞かせいただきたいのですが。」
来た。
『本音?一体何のお話でしょう?』
青藍は知らない顔をして聞き返す。


「何故、深冬様をお選びになったのか、ということです。青藍様は突然深冬様とご婚約されました。当時、深冬様は幼かった。この婚姻の意図をそろそろお聞かせ願いたい。」
その問いの中には、何故あのような養子を朽木家が受け入れたのだ、という疑問と納得がいかないという心情が見え隠れしている。


『加賀美家は上流貴族ですよ。その加賀美家の姫なのですから、朽木家が迎え入れることに何の不思議もないと思いますが。』
青藍はにっこりと答える。


「ですが・・・深冬様は、こう言ってはなんですが、養子にございましょう?それも、豪紀殿のお父君が流魂街で拾ってきたという・・・。」
『えぇ。そんな噂もございますね。』
「朽木家を思うのならば、他にも姫は幾らでも居りましたでしょう?青藍様ならば、特に。」


この人、僕のこと嫌いなんだろうなぁ。
妬みや僻みが見え隠れしているよ・・・。
青藍は内心でそう呟きながらも笑みを崩さない。


『そうでもありません。深冬の出自は確かなものですので。』
「では、深冬様のご両親をご存じなので?」
『えぇ。もちろん。』
頷いた青藍に、貴族たちから小さな動揺が見える。
これまで沈黙していた深冬の出自について、青藍が初めて語ったからだ。


『正確に言えば、加賀美家の前当主が拾って来たのではありません。預かったのです。』
「預かった・・・?」
青藍の言葉に一同が首を傾げる。


『えぇ。深冬の実の親から預かったのです。・・・あぁ、見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。私どもの祝言にいらした方ならば。深冬によく似た方が、深冬の隣を歩いておりましたでしょう?』
青藍に言われて、貴族たちは思い至ったらしい。


「あの方が、深冬様の・・・?」
『そうです。あの方が、深冬の実の父親にございます。』
「「「えぇ!?」」」
「なるほど。道理で・・・。それ故、深冬様と共に歩いていらしたのですね・・・。」


『はい。娘を養子に出した方ではありますが、それは事情あってのこと。実の父親なのですから、祝言という晴れの日にお招きするのは当然にございましょう?』
「確かに、そうでございますな。しかし・・・事情というのは?」
聞かれて青藍は寂しげな瞳をする。


『・・・深冬の母が亡くなりましたので。』
青藍の言葉に、同情の声が上がる。
『本来ならば、父親であるあの方が深冬を育てなければなりません。しかし、あの方はお忙しい方。男手ひとつで育て上げるのも難しかったのでございます。それ故、加賀美家の前当主にお預けになりました。』


「そんなことがあったのですね・・・。」
「私はてっきり、あの色の珍しさに、加賀美家の前当主が拾われたのだと・・・。」
正直な言葉に青藍は内心で苦笑する。
『そんなことはありませんよ。お二人が顔を合わせた場所が流魂街だったために、流魂街から拾ってきた子供、という噂が立ったのでしょうねぇ。』


「しかし・・・あのお方は、一体どういう方なのですか?貴族にはあのような色彩の方はおられません。それに・・・豪紀殿の当主引き継ぎの日。あの日に現れた方々も同じ色彩をしておりました。我々はその辺のことを詳しく教えて頂けなかったもので・・・。」
困ったように言いつつも、興味津々なのが見て取れる。


『その際は大変お騒がせいたしました。・・・確かに、あの方は貴族ではございません。』
「では・・・。」
『貴族ではございませんが、貴族以上に高貴なお方にございます。我が朽木家でさえも敵わないほどの。』
青藍の言葉にざわめきが奔る。


「それは一体、どういう・・・?」
『・・・あのお方は、安曇様。豪紀殿の引き継ぎの儀に私どもを襲ったのは、その安曇様の一族の者でございます。安曇様は一族の長であらせられるために、その身を狙われることもあるのです。彼らは私と深冬を利用して、安曇様を長から蹴落とそうとしたようでございます。』


「一族の長、ということですが・・・あのような一族が居りましたでしょうか?」
若い貴族たちは首をひねるが、長老とも呼べる年長の貴族たちは、何か心当たりがあるようだ。
流石に、長く生きていると、博識だなぁ。
青藍は長老たちに感心しつつも、それを表情に出すことなく説明を続ける。


『えぇ。居りますよ。心当たりがある方もいらっしゃるようですね。』
そう言って青藍が長老に視線を向けると、彼は頷いた。

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