色彩
■ 42.謀られる

『・・・安曇様は、母上が漣家で受けていた仕打ちを、どこまでご存じなのですか?』
青藍に真っ直ぐに問われて、安曇は小さく顔を歪める。
「・・・・・・全てだ。」
苦虫を噛み潰したように、安曇は言った。


『・・・そうですか。』
青藍はそう言って目を伏せる。
『全てを、知っておられるのならば、そのことについて、沈黙を守って頂きたいのです。母上には、その記憶がありませんので。霊妃様が、母上の意識を奪ったものですから。今更それを知る必要もございませんし。』


「・・・そうか。解った。」
安曇は静かに頷く。
『お願いいたします。・・・十五夜様にも、そうお伝えください。』
青藍の言葉に、安曇は軽く目を見開く。


「・・・十五夜が、それを知っていると、気が付いたのか。」
『はい。安曇様が知っておられるのならば、十五夜様が知らぬはずはありません。知らなかったのならば、この間の件があれ程穏便に処理されるはずもありませんし。』
「そうか・・・。そうだな・・・。」


『あの方は許される必要がないと考えておられるようですが、僕はそう思いません。十五夜様は母上を大切に思っていらっしゃる。それは本当でしょう。だからこそ、許されるべきではないと解っておられる。そして、それで苦しんだ者の一人です。安曇様と同じく、その他にも抱えるものがあり、苦悩の多い立場であるのに。・・・だから、僕は許します。そう、お伝えください。誰よりも長く苦しんだのは、あの方です。もう苦しまなくてもいいと、母上は幸せなのだと、安曇様から、言ってあげてください。僕らが十五夜様に直接言っても、あの方はそれを良しとはしないでしょうから。』
青藍は困ったように言う。


『普段はアレな方で、正直糞爺と思うことが多い方ですが、あの方が僕らを守ってくださっているというのは本当のことです。だから僕らは感謝しているのですよ。十五夜様がいらっしゃるお蔭で、僕も母上も、こうして自由に歩き回ることが出来るのですから。その感謝も、お伝えくださると嬉しゅうございます。』
そう言って微笑んだ青藍に、安曇は苦笑する。


「・・・あぁ。伝えておこう。」
そして安曇は大きく頷いた。
『よろしくお願いいたします。・・・全く、十五夜様は素直でないので困りますねぇ。一人ですべて引き受けようとするあたり、母上と同じ血が流れていることを実感します。』


「それは青藍も同じだろう。」
安曇はそう言って困ったように微笑む。
『そう言われてしまうと・・・否定できないのですが。』
青藍も困ったように微笑んで、互いに可笑しそうに笑ったのだった。


それから数日後。
青藍は貴族の集会に参加していた。
今日は深冬も一緒である。
といっても、彼らは離れたところに居るのだが。


・・・謀ったな。
青藍は周りに群がる老若男女の貴族たちにうんざりしながら内心で呟く。
二人が会場に足を踏み入れた瞬間、あっという間に貴族が押し寄せて、あっという間に二人を隔離してしまったのである。
例の噂の真偽を確かめるために。
青藍はそのことについて語らずに流してしまうため、深冬に聞くつもりなのだ。
彼女への忠告も含めて。


・・・まぁ、いい機会かな。
深冬の素性を調べている者もいるようだし、安曇様の正体を勘ぐる者もある。
聞かれたら安曇様が霊王宮の者だと言ってしまおう。
だから朽木家は深冬を受け入れたのだ、と言われようとも、その辺はどうやったって政略的なものが含まれている結婚だと思われているのだ。
説明するだけ時間の無駄だろう。


僕がどれほど深冬を愛しているか語ったところで、理解が得られるとも思えない。
信じるのは、慶一殿や秋良殿ぐらいだ。
彼らは僕が深冬にべた惚れであることを彼らの娘たちから聞かされているのだから。


何より、深冬の可愛さをこの下心丸見えの貴族たちに語るなど、勿体ない。
彼らは僕が他に妻を取ることを望み、それが自分の家の女であることを望む。
男性に関して言えば、密かに深冬を狙っているものもあるのだ。
わざわざ教えてやる必要はない。

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