色彩
■ 41.相談

だがしかし。
ここで問題が一つ。
父親が霊王宮の者なのに、何故深冬はこちらに居るのか。
という疑問が貴族たちに湧き上がってくるだろう。


『それを上手く説明できないと、安曇様の権威があっても、効果は半減する。』
貴族同士の婚姻というのが貴族の掟にあるくらいである。
流魂街の血が入った者を下に見るものも多い。
その辺は父上が若干ぶち壊した感があるけれど。


まぁ、それはそれとして。
もちろん、流魂街の民であった美央さまが悪いわけではないのだが、深冬の母親が流魂街の民であったことが漏れると中々面倒なのだ。


安曇様が守っているという、安曇様の先代の子ども、そのまた子どもが、流魂街には居るのだから。
彼等を利用する、または、彼ら自身がそれを利用することになっては、非常に面倒なのである。


安曇様が言うには、見た目的にはそう目立つ者ではない上に、父親はどこぞの貴族だったと伝えているらしい。
もう父親は死んだとも。


だが、いい加減安曇様が面倒を見なくても自分たちでやっていくことが出来るようになっているため、安曇様が彼らと顔を合わせる必要もなくなっている。
年を取らない雰囲気の安曇様を不審に思い始めている者もあるそうな。
よって、安曇様はそろそろ彼等との縁を切るらしい。


『つまり、彼らがそれを知らなければ、美央さまが流魂街の民であったことが知られても大した騒ぎにはならないということだ。』
「・・・一体、何を考えているのだ?」
青藍がそんなことを口にしたとき、後ろからそんな声が聞こえてくる。
その声の主が誰か解った青藍は、嬉しげに振り向いた。


『安曇様!丁度いい所に。』
青藍はそう言って微笑み、安曇の腕を取った。
「な、何だ・・・?」
楽しげな青藍に、安曇は不審そうな顔をする。
『安曇様が霊王宮の方だってこと、ばらしません?』


「は?」
唐突にそう言われて、安曇の口からは呆けたような声が出る。
『だから、安曇様が霊王宮の方だということを、公にするのです!』
青藍はそう言ってその訳を安曇に話し始めたのだった。


「・・・・・・なるほどな。」
説明を聞き終えた安曇は考えるように頷いて出された菓子をつまむ。
『如何でしょう?』
「要するに、青藍の見合い避けのために、私が霊王宮の者であるということを公表したいということだな?」
安曇は面倒そうに青藍に言う。


『あはは。嫌ですねぇ。深冬のためにもなりますよ。』
そんな安曇を気にすることなく、青藍は楽しげだ。
「・・・まぁ、私は構わぬが。私の仕事の内容まで知られることがなければ問題ない。」
『えぇ。それは勿論隠すつもりです。適当に霊王様のお相手をしている、とでも。それか、王族への装飾品を作っている、とかどうですか?』


「前者は私の仕事の一つではある。まぁ、後者も遠からず、だな。」
『ふふ。純粋な嘘というのはばれますからね。真実も多少混ぜ合わせましょう。』
「そうか。では、好きにするがいい。」
『ありがとうございます。』


「先代の子は、先代が霊王宮の者であることは知らぬ。あれの母親はあれを生んだ時に死んでいるからな。先代も髪と瞳の色を変えて何度か顔を見せただけで、自分の素性は明かさなかった。私も教えていない。あれの前では頭巾を被っていたしな。それ故、あれが自分の血筋を知ることはなかろう。」
安曇はそう言って再び菓子をつまんで口に入れた。


『そうでしたか。では、公表しても差し支えなさそうですね。・・・ふふふ。深冬の父親が霊王宮の者だと知った貴族たちの動きが楽しみですねぇ。』
青藍はそう言ってニヤリと笑う。


「なんだ。それが本音か。」
『深冬を貶されて黙っている僕ではありませんからね。阿呆面を晒して頂いて、楽しませて頂こうかと。』
「ははは。相変わらずのようだな。流石青藍だ。」
安曇は楽しげに言う。


『ふふ。美央様のことは一応伏せますが。まぁ、それが公になって、深冬の母親が流魂街の民であることを貶すような者があれば、その辺は僕が黙らせます。実花姫によれば、貴族の妻というのは、夫を騙しているようなので。』
「例の難儀な才能か。・・・利用しないと言っていなかったか?」
『さて。それは加賀美君の言葉では?』
青藍は惚けたように言う。


「・・・それは屁理屈というのだ。青藍もあの場に居ただろう。」
そんな青藍に安曇は呆れたように言った。
『まぁ、いいじゃないですか。それでも調べれば出てくると思いますよ。実の親は流魂街の民だった、という貴族の方が。そういう疑いのある方の方が、流魂街の民を馬鹿にしたりするものなのですよねぇ。』


「確かにそうだな。生まれがそう重要だとは思えぬが。」
『えぇ。僕もそう思います。たとえ深冬の両親が流魂街の民でも、僕は無理をしてでも深冬を妻にしたでしょう。父上のように。』
「そうだろうな。そなたは咲夜に似ているが、白哉にも似ている。まぁ、咲夜も咲夜で、その辺を気にすることはないが。」
安曇はそう言って笑う。


『そうですね。母上は、貴族らしくない貴族ですので。』
「ふふ。私は、貴族らしくしている咲夜より、普段の咲夜の方が好きだがな。あれは貴族らしくしていると、怖くてかなわぬ。」


『あはは!僕もそう思います。・・・そうそう。その母上のことで、確認しておきたいことがございまして。』
青藍はそう言って居住まいを正す。

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