色彩
■ 39.罪の意識

「・・・深冬も意外と食べるけど、太ったりはしないのかい?」
十五夜は疑問に思って、深冬に問うた。
「私ですか?私は・・・そういえば、あまり体重は変わりません。背が伸びればその分増えますが、最近は背も伸びません・・・。」
深冬は少し落ち込んだように言う。


「あら、羨ましいわ。」
「そうね。私たち何て、食べた分動かないとすぐに太るのよ?」
「そうなのか?変わらないように見えるが。でも、私は死神だからな。日々咲夜様との稽古があるから、運動量は普通よりも多いかもしれない。」


「豪紀様は死神だけれど、普通よ?」
「確かに。」
四人は静かに酒を呑んでいる豪紀に視線を向ける。
「・・・何ですか?」
それに気付いた豪紀は不思議そうに四人を見た。


「豪紀様は、あんなに食べなくても体が持つのかしら?」
実花はチラリと青藍を横目で見ながら問う。
それに釣られたように豪紀も青藍を見た。
「・・・そうだな。あれの半分食べれば食べた方だろう。」
呆れた視線を向けながら豪紀は言う。


「あら、それでもあれの半分は食べられるのね。」
梨花は意外そうに言う。
「霊力を消費すると腹が減るものだからな。」
「そういうものなのね。」
「あぁ。そうはいってもあれは規格外だが。・・・やっぱりあれも食うのか。」
そう言った豪紀の視線の先では青藍がすき焼きに手を付け始めている。


「でも、ああやって食べている方が安心します。青藍は忙しいとご飯を食べなくなるので。それでいつも睦月に怒られて、睦月特製の不味い栄養ドリンクを泣きながら飲まされているのですが。」
深冬は苦笑する。


「はは。なるほどね。それは心配だ。昔は咲夜もそういう子だったなぁ。」
十五夜は懐かしそうに言う。
「そうなのですか?」


「うん。あの子、昔、副隊長だったから、忙しい身でね。その上、漣家の当主もやっていたし。あの子の隊長、宗野春雪という男なのだけれど、彼は、いつも咲夜に食べ物をあげていたなぁ。銀嶺と蒼純も色々と手を回していたし、咲夜がちゃんとご飯を食べているか心配していた。ほんと、放って置くと、自分を大切にしないから。まぁ、そう育ってしまったのは、僕のせいでもあるのだけれど。」
そう言って十五夜は苦笑する。


「・・・それは、仕方のないことだったのでしょう。十五夜様は、咲夜様を助けたくて仕方がなかったのでは?本当は、全てを知っておられたから。違いますか?」
深冬に問われて、十五夜は目を丸くする。
「何故、そう思うのかな?」


「この前、十五夜様は、父様を責めたりしなかったからです。春乃嵐を取り出してはおられましたが。それは、すべて知った上で、見ていたからなのではないかと、思うのですが。」
深冬は真っ直ぐに十五夜を見つめる。
十五夜はそんな深冬に内心苦笑する。
事実、その通りだからだ。


「そうだとしたら、君は、僕を許さないのかな。君は、朽木家の者を傷付けたら許さないと、言っていたから。」
「いいえ。」
寂しげに言った十五夜に、深冬は首を横に振る。
「どうして?」


「十五夜様は、その罪の意識を背負っておられます。それが罪だと、解っている。そしてそれが自分の役目だと思っている。だから、許しなどいらない。知っているということを、誰にも話さないのは、そう考えているからではありませんか?」
どうしてこの子はこんなに鋭いのだろう。
十五夜は内心で呟く。


「咲夜様は、許すとおっしゃいました。でも、咲夜様が許したのは、父様と、彩雲様と、漣家と、その家臣と、自身のお婆様です。あの許しの中に、十五夜様はおられなかった。咲夜様は十五夜様が知っていたことを知らないから。だから、十五夜様は、許しが必要ないと思っていると考えることが出来ます。あの時、自分も知っていたと言わずに、皆と共に攻撃する振りをしたのは、自分が許されるべきではないと、解っているからです。許してほしくないと、思っているからです。・・・だから、私は、許します。」


「・・・やっぱり君は、安曇の子だなぁ。」
十五夜はそう言って深冬の頭を撫でる。
「許してくれて、ありがとう。」
それから呟くようにそう言って微笑む。


「青藍も気が付いているだろうか。」
「それは・・・どうでしょうか。あの時の青藍は普通ではなかったので。」
「それじゃあ、とりあえず、秘密にしておいてくれるかな。」


「はい。でも、きっと、青藍は、それに気が付いても、十五夜様を許すと思います。父様を許したように。そしてそれは、あの場のような口先だけの許しではなく、心からの許しでしょう。貴方の苦しみが分からない青藍ではありませんから。」


「そっか。青藍はそういう子だよね。他人が苦しんでいると、自分も苦しむ。」
「はい。だから、放って置けないのです。」
「そうだね。」
二人はそう言って微笑みあったのだった。


『あ、十五夜様!僕の深冬に何をしているのですか!』
楽しげな二人に気付いたらしい青藍は、不満げにそう言った。
「あれ、見つかってしまったか。」
「そのようですね。」
そんな青藍に二人は苦笑する。


『深冬まで何を笑っているのさ。』
「そう拗ねるな。十五夜様とお話をしていただけだ。」
「そうそう。深冬は安曇と違って可愛いからね。」
「何!?私の悪口か!?」
それまで甘味を貪っていた安曇が、十五夜の言葉に反応する。


「爺の癖に地獄耳なのか、君は。」
「爺に爺と言われたくないわ!」
「僕がいくつでも、君が爺なのは変わりないだろう!」
「それでもお前のような糞爺に爺と言われるのは心外だ!」


『それはどうでもいいですから、とりあえず、深冬を返してください!』
「えぇ、どうしようかなぁ。このまま連れて帰ってもいい?」
十五夜はそう言って深冬を抱き寄せる。
「駄目に決まっているだろう、糞爺!!!」


『駄目です!!・・・深冬、危ないからこっちへおいで。』
呼ばれた深冬は十五夜の腕から抜け出そうとする。
「え、深冬、逃げちゃうの?僕のこと、嫌い?」
「・・・。」
しかし、十五夜の寂しげな声に、動きを止めて、困ったように三人を見る。


「あら、また始まったわ。」
「そうみたいね。」
「深冬も大変だな。」
そんな四人を梨花、実花、豪紀は、呆れたように見つめたのだった。

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