色彩
■ 38.大食い

『・・・ん。甘い。美味しかった。』
全てを舐めとって、青藍は満足げに言う。
手を離されても、深冬は動くことが出来ない。
『ん?どうしたの?』
青藍はそんな深冬を不思議そうに見つめる。


「・・・い、いや、なんでも、ない。」
深冬は挙動不審になりながらも手を引っ込める。
『そう?・・・さてと、僕はお腹が空いたから、何かご飯を食べようっと。』
青藍はそう言うと何事もなかったかのようにお品書きを手にとって眺め始める。


「・・・青藍様って、こう、何か、あれなのよね。」
「えぇ。こう、卑猥、なのよね・・・。本人にその気はないようだけれど。」
「何度見ても慣れないわ・・・。」
「そうね・・・。見てはいけないものを見ているような・・・。」
梨花と実花は小さく呟く。


「・・・いや、まて。あれは、通常運転なのか?」
「あら豪紀様、知らないの?朽木家、あれが通常運転よ。」
「そうそう。卑猥さで言えば、白哉様と咲夜様が一番ね。白哉様は甘いものを好まないから、指を舐めるのは咲夜様だけれど。」


「咲夜様の口元に付いた生クリームを白哉様の指が掬い取って、それをそのまま咲夜様の口元に持っていくのよね。」
「そうすると、咲夜様は当然のようにその指を舐めるのよ・・・。」
「正直、直視できないわ・・・。」
「私もよ・・・。」


若干顔を赤くする二人に、豪紀は唖然とするしかない。
そして、助けを求めるように、安曇と十五夜に視線を向ける。
十五夜は何でも無いように酒を呑み、安曇は気にした様子もなく甘味を食し続けている。
十五夜様はともかく、安曇様は気にするべきなんじゃないのか・・・?


目の前で、自分の娘の指を舐められていたら、普通、父親はいい顔をしないよな?
何故、平気で甘味を食べていられるんだ?
・・・俺が、可笑しい訳では、ないよな?
味方が居ない状況に、豪紀は混乱しそうになる。


『加賀美君も何か頼む?・・・どうしたの?』
何を頼むか決めたのか、青藍はお品書きを閉じて豪紀を見た。
動きを止めている豪紀に気が付いて、首を傾げる。


「い、いや、何でもない。・・・俺も、何か、頼もう。」
『そう?はい、どうぞ。』
青藍は不思議そうにしながらも、豪紀にお品書きを渡した。
お品書きを開きながら、豪紀はチラリと深冬を見る。
顔を赤くしながら、甘味に手を伸ばしている。
その様子を見て、豪紀は内心で同情した。


言うだけ、無駄なのか。
むしろ、言うと余計に面白がるのだ、朽木青藍という男は。
だから何も言わずに、何も突っ込まないのか。
では俺も突っ込まない様にしよう。
豪紀はそう思って何を食べるか決め始めたのだった。


「・・・ねぇ、青藍。」
暫くして、十五夜は黙々と料理を口に運んでいる青藍に声を掛ける。
『なんですか、十五夜様。』
「君、一体、どういう体しているの?」


『?』
怖いものを見るようにそう言った十五夜に、青藍はもぐもぐとしながら首を傾げる。
「・・・どう見てもその体にこの量は入らないと思うんだよ、僕は。」
言いながら十五夜は空になった膳と器をチラリとみる。


刺身御膳、季節御膳、天重、うな重、ちらし寿司、盛り蕎麦、おやき・・・。
それらを綺麗に平らげて、今は焼きおにぎりを頬張っている。
さらに、青藍の目の前にはすき焼きが準備されているのだ。
それも恐らく三人前ほどの量が。


『そうですか?』
青藍は何でもない事のようにそう言って、二つ目の焼きおにぎりを手に取る。
そしてぱくりとそれをかじった。
・・・甘味攻めも辛いけど、これだけの量を目の前で食べられるのも辛い。
十五夜は内心で呟く。


「・・・十五夜様。これはいつものことです。」
そんな十五夜の心情を察したのか、深冬が諦めたように言う。
「あぁ、そうなんだ・・・。青藍の体の中は、一体どうなっているのかな・・・?」
「胃袋が無駄に伸びるのでしょう。・・・あれだけ食べても、あの体形を維持しているので、それだけ消費しているということもあるでしょうが。」


「なるほどね・・・。僕は見ているだけで胃もたれしてしまいそうだよ。」
「そうですね・・・。ですが、朽木家ではあれが日常です。白哉様、咲夜様、橙晴に茶羅も青藍ほどではありませんが、吃驚するほど食べるのです。ルキアさんは普通ですが。」


「それであの体形を維持しているって、どういうことなのだろうね・・・。」
「あら、それを言うなら、安曇様の方が摩訶不思議ではなくて?」
「そうね。甘味で生きているのに、あれだけ細くてお綺麗だなんて羨ましいわ。」
遠い目をする十五夜に、梨花と実花はそんなことを言う。


まぁ、確かにそうだ。
十五夜は内心で同意して、安曇を見やる。
そこには未だ嬉々として甘味を口にする姿があった。
・・・長年一緒に居るけれど、安曇は何故あれ程食べても太らないのか。
栄養だって相当偏っているだろうに。
普段の食事はほとんど口にしないくせに、甘味だけはやたらと食べている。


儀式で体力を使うと言っても、あれは月の三分の一ほどしか、働かない。
三分の一は長としての仕事をしているようだが、それも指示だしだけで、自分で動くことはほぼないらしい。
あとの三分の一は霊王のそばで菓子を消費しているか、寝ている、若しくはこちらに降りてきているかである。
それでも長だというのだからなんだか納得いかない。

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