色彩
■ 37.別腹

「構わないさ。・・・それより、あの元気のいい姫たちと、安曇の爺をどうにかしてくれないか・・・。延々と甘味を食しているんだ・・・。僕は見ているだけでお腹いっぱいだよ。」


十五夜に言われて二人は室内を見る。
この店の甘味を制覇する気なのか、膳の上には甘味しかない。
それを、深冬、梨花、実花、安曇の四人が、楽しげに消費しているのである。


『あぁ、本当ですね。あれは、普通の男性には辛いです。』
「そうだな。そして安曇様はあそこに居ても違和感がないな・・・。」
「あはは。それ、本人の前で言ったら拗ねるよ。」
『まぁ、安曇様は甘味を取り上げた反動がきているのでしょうね。』
青藍は苦笑する。


「そうだろうね。安曇、三日で死にかけたからね。普通のご飯を食べさせるのに苦労したよ。甘い卵焼きしか食べなかったけど。それで二週間過ごせるのだから凄いよね。」
「一体どういう体をしているのですか・・・。」
『あはは。ほら、安曇様はお菓子で出来ているから。』


「・・・む?青藍に加賀美の倅ではないか。」
安曇の声に他の四人は青藍たちの方を向いた。
「青藍?豪紀兄様も。」
「あら、何時の間に。」
「気が付かなかったわ。」
そして目を丸くする。
気が付いていなかったのか・・・。
その様子に青藍と豪紀は苦笑した。


『どうも。お邪魔します。』
「お久しぶりにございます、安曇様。」
二人は軽く頭を下げて四人に近付いていく。
十五夜は甘いにおいを嗅ぐのも嫌なのか、窓を開けてその傍に座り込んだ。


「青藍?貴族の自慢話は終わったのか?」
深冬は首を傾げる。
『あはは。まだ続いていると思うよ。疲れたから抜け出してきちゃった。丁度十五夜様がいらしたから。』


「・・・なるほど。十五夜様の権力を使ったのね。」
「青藍様、程々にしないと、怒られますわよ。」
梨花と実花は呆れたように言う。


『違います。君たちの相手に疲れた十五夜様が僕らを借り出したんです。ね、十五夜様?』
「あはは。そうだね。二人を借りたのは僕の方だよ。僕には甘味攻めは辛い。一件目は良かったのだけれどね・・・。」


「この爺、二件目からは酒ばかり頼みおって。この美味さが解らぬとは憐れなことだ。」
「五月蝿いよ。僕だって別に甘味が嫌いなわけじゃないんだよ。君たちがおかしい。特に安曇の爺は可笑しい。・・・甘味を持って近寄るな。気持ち悪くなるだろう。」


『あはは。十五夜様、参ってますねぇ。』
甘味を差し出そうとする安曇から逃げる十五夜を見て、青藍は笑う。
「だってこれ、すでに五件目だよ?可笑しいよね?可笑しいと思う僕は間違っていないよね、青藍?」
『えぇ。間違ってはおりません。ですが、甘いものは別腹といいまして。』


「別腹の方が容量多くない?何度も言うけど、これ、五件目だよ?」
『確かに。安曇様においては別腹とかそういう次元じゃありませんものね・・・。』
青藍はそう言って安曇の膳を見る。


くりーむ餡蜜、葛きり、ぜんざい(餅)、ぜんざい(白玉)、豆大福、きんつば、きんとん饅頭、みたらし団子、信玄餅・・・。
他の四人の前にはそれぞれ一つずつだが、安曇の前には三つずつ用意されている。
もっとも、その大半は既に消費されているのだが。
流石の僕でもこれは無理だ。
そしてこれが五件目という事実に青藍は苦笑するしかない。


「青藍も、食べるか?」
深冬はそう言って青藍を見つめる。
『じゃあ、みたらし団子。一つ頂戴。』
青藍は言いながら深冬との距離を詰める。


「これか?いいぞ。」
深冬はみたらし団子の串を手に取って青藍に差し出した。
しかし、青藍はそれを受け取ろうとしない。


「食べないのか?」
深冬は首を傾げる。
『食べさせて?』
青藍は甘えるように言う。


「我が儘な奴だな。・・・口を開けろ。」
そう言って深冬は青藍の口元に団子の串を近づける。
青藍は嬉しげに口を開けた。
ぱくり。
そんな擬音がよく似合う食べ方である。


『ん。美味しい。』
「そうか。それは良かった。」
青藍が微笑むと、深冬もつられたように笑う。
「・・・あ、みたらしが手に付いた。」
みたらしが垂れ、深冬の人差し指を汚す。
深冬は慌てて団子を皿の上に置いた。
青藍はその手を捕まえる。


「な、何だ?早く拭かないと、垂れてしまうぞ・・・?」
深冬は目を丸くしながらも空いた手でおしぼりを手に取ろうとする。
その間にも、みたらしは深冬の指を伝っていく。
・・・ぺろり。


「にゃ!?」
深冬が驚きに青藍に目をやると、青藍が舌でみたらしを舐めとっている。
「だ、な、何を、して・・・。」
ぺろ、ぺろり。
逃げようとする深冬だが、青藍の力には敵わない。


「や、やめ・・・。」
その舌が赤く、その動きが艶めかしい。
それを直視してしまった深冬は真っ赤になった。


失敗した。
目を逸らしておくべきだった。
深冬は内心でそう呟く。
その間も青藍はみたらしを舐め続ける。
指先を舌が這ってぞくり、と背中に震えが走る。

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