色彩
■ 35.揺れる花びら

『・・・いいえ。貴方方は、誰よりも崇高で、気高く、誇り高い。それを守ったものを責めることは勿論、それに守られたものを蔑ろにすることなど、有り得ません。その背は、目を逸らしたくなるほどに眩しく、遠い。私は・・・私もそうなりたかった。だから私は、それを背負った貴方方の背を、追いかけようと思ったのです。』
青藍の声には、先ほどの不安げな様子はない。
銀嶺はそれを聞いて大きく頷く。


「・・・やはり、そなたは、朽木家の血を継ぐ者。我らが誇りじゃ。その意気を忘れぬことじゃ。過去は変えられぬ。変えられぬが、過去は教訓を与える。過去を知り、未来を見つめよ。過去を見たまま未来へ進むな。未来を見つめ未来へ進め。・・・それが分かったのならば、二度と自分はここに居ていいのか、などと問わぬことだ。よいな?」
真っ直ぐに銀嶺に見つめられて、その瞳を見つめ返す。


『・・・はい。愚かな問いでした。二度と、このような問いはいたしません。』
青藍はそう言って軽く頭を下げる。
「よい。頭を上げよ。」
言われて青藍は頭を上げる。
その顔を見て、銀嶺は微笑んだ。


「・・・では、儂に茶でも出してくれるかの。弥彦は一所に留まって居らぬのでな。茶を飲む暇もないのじゃ。たまにはゆるりと茶が飲みたい。」
銀嶺は力を抜いて悪戯っぽく言う。
『ふふ。はい。ご用意いたしましょう。』


「ついでに、儂の話に付き合ってくれるか?」
『えぇ。喜んで。弥彦様と何をしていらっしゃるのか、詳しくお話しして頂けると、幸いです。何か、悪巧みでもされておられるのですか?それとも、楽しいお話ですか?楽しいお話ならば、僕も混ぜて頂きたいですねぇ。』


「ほほ。なぁに、爺のお遊びじゃよ。暇を持て余しておるのじゃ。」
銀嶺は楽しげに笑う。
『それならそれで、すぐに連絡が取れるようにして頂きたいものです。・・・次は、茶羅ですよ。』


「そのようじゃのう。あれもこれも、難しい道を行く。心配で死ぬことも出来ぬわい。」
やれやれと首を振りながら、銀嶺はため息を吐く。
『ふふ。では、温かく見守っていてください。そして、たまには、このようにお顔を見せて頂けると、嬉しゅうございます。』
「嬉しいことを言ってくれる。」


『それから、野に放った茶羅を、よろしくお願いいたします。』
「あれはあちらこちらを飛び回る故、年寄りは目が回る。」
『ご冗談を。わざわざ弥彦様について回っているのは、茶羅のためなのでしょう?』


「そなたは一体、どこまで知っているのやら。」
『ふふ。その辺はお茶でも飲みながらお話しいたしましょう。』
二人はそんな話をしながら、墓廟を出ていく。
閉じられた墓廟の中で、それを笑うように、供えられた花が花びらを揺らしたのだった。

[ prev / next ]
top
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -