色彩
■ 34.墓廟

それからさらに数日後。
青藍は朽木家の墓廟に来ていた。
花を添え、線香を焚く。
何かを祈るように手を合わせてから、ある墓標を眺める。


・・・蒼純お爺様は、一体、どこまで見えていたのですか。
胸の中で小さく問うが、当然の如く応えはない。
小さく息をついて、並べられた朽木家の墓標を見回す。
僕は、朽木家を、守ることが出来ていますか。


そもそも、貴方方は僕を朽木家の者だと認めておられるのでしょうか。
僕の様なものが、朽木家の当主となり、ご不満なのでは?
答えがあるはずもないと解っていながらも、青藍はそう問わずにはいられない。


「・・・青藍は、孝行者じゃのう。」
後ろから答えるようにそんな声が聞こえきて、青藍は振り向いた。
『銀嶺お爺様・・・。』
墓廟の入り口に、銀嶺が立っていた。
逆光でその表情は見えないが、声の様子からして、きっと微笑んでいるのだろう。


「久しいの。元気であったか?」
銀嶺はそう言いながら歩を進めてくる。
漸く見えたその顔がやはり微笑んでいて、青藍も笑みを返した。
『はい。お爺様もお変わりないようですね。』


「ほほ。儂は気楽な隠居老人じゃからの。」
楽しげにそう言って、持ってきた花を添えた。
線香を焚いて、手を合わせる。
それが終わると、彼もまた蒼純の墓標に目を向けた。


「今日は月命日なのじゃ・・・。」
その呟きが寂しげな余韻を残して、廟内に響く。
『・・・ごめんなさい。銀嶺お爺様。』
青藍は呟くように言う。
そんな青藍を銀嶺は困ったように見つめた。


「何を謝る。」
『解りません。でも、僕・・・僕は、僕が蒼純お爺様を奪った気がします。蒼純お爺様は、母上を守っていた。母上の光でした。漣家に居た母上は、何度も蒼純お爺様の名を呼びました。蒼純お爺様と共に過ごした日々を夢に見ていた。蒼純お爺様の幻を見るほどに。』
話し始めた青藍に、銀嶺は耳を傾ける。


『母上が、死にたいと願いつつも、最後の一線を越えなかったのは、死ねない様にされていたということもありますが、蒼純お爺様の存在があったからです。僕は、そうやって母上を守ったから、蒼純お爺様が短命だったのではないかと、思うことがあります。そして、それがあったから、僕は今ここに居るのだと。』
青藍は泣きそうに言った。
そんな青藍に、銀嶺は目を伏せる。


「・・・それならそれで、いいのじゃ。」
ぽつり、と呟くように言う。
『でも・・・。』
「いいんじゃよ。」
そう言って銀嶺は青藍に優しいまなざしを向ける。


「あれは・・・蒼純は、咲夜を妹のように可愛がっていた。咲夜も、兄を慕うように、蒼純を慕っていたのじゃ。だからあれは、咲夜を守ったのじゃよ。兄が妹を守ることに何の矛盾があろうか。そなたとて、茶羅を守るためならば、命を削ることも良しとするじゃろう。」


『それは、そうですが・・・。』
「それと、同じことなのじゃ。」
『では、僕は、ここに居ても、いいのですか・・・?僕などが、朽木家の当主で、いいのでしょうか・・・。』
青藍は不安げに銀嶺を見つめる。
その瞳を見て、銀嶺は苦笑した。


「当たり前じゃ。誰がそなたをいらぬと言った。言うた者があるなら、儂がその面を張り倒してやる。・・・そなたは、正真正銘、朽木家の血を継ぐ者。誰もが認める、我らの朽木家当主じゃ。蒼純はそれを守った。守られたと思うのならば、そなたも守らねばならぬ。それがそなたの役目じゃろう。違うか?」
銀嶺にひたと見つめられて、青藍は答えに戸惑う。


「蒼純は、体は弱かったが、それでも、あれは、朽木家の男なのじゃ。儂の自慢の息子であった。その息子が命を懸けて守ったものを、儂が、儂らが、蔑ろにすると思うか。」
目の前に居るのは銀嶺お爺様のはずなのに、自分が話しているのは、朽木家の祖先たちのような気がした。

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