色彩
■ 32.踏み込むな

「で、実際の所はどうなのよ?」
乱菊は興味津々といった様子である。
『心臓を掴まれて、色々と話をしているうちにある事実が発覚して、僕がそれに怒って、理性をなくしたという程度のことです。』


「説明になってねぇ上に何処から突っ込んでいいのか解らねぇ・・・。」
青藍の色々と隠し過ぎた説明に、冬獅郎は呆れたように呟く。
『・・・まぁ、母上のことですよ。母上を苦しめていたものは、人為的だったということです。昨日来られた方は、それを指揮した方だったもので。それを聞いて、つい、箍が外れてしまいました。始解をしているわけでもないのに、雷を呼んでしまったくらいで。』
青藍は困ったように苦笑する。


「へぇ。昨日のあの雷雲はお前だったのか。怖い奴。」
そんなことを言いながらも、冬獅郎はまったりと茶を啜る。
『あはは。冬獅郎さんも同類でしょう。』


「青藍、本当に怖かった・・・。」
キリトは思い出したように顔を青くしながら呟く。
「そうなの?僕、行かなくて良かった。」
そんなキリトの様子に、京は小さく呟いた。


「そりゃあ、隊長格が揃いもそろって居なくなるわけだ。浮竹も京楽も朽木も居なかった。異変を感じた総隊長が隊長数名を呼び出したってのに。」
冬獅郎は何でもない事のように言う。
「昨日の招集はそれが理由だったんですか、隊長。確か、呼ばれたのは、五、六、八、十、十三番隊の隊長たちですよね?」
乱菊は首を傾げる。


「あぁ。ま、来たのは俺と平子だけで、来なかった面子から、総隊長は思い当たる節があったんだろう。俺と平子は待機を言い渡されてそれで終わりだった。」
『あはは。意外と大事になりかけていたのですね・・・。』
青藍は苦笑する。


「そりゃそうだろ。技術開発局から落下物の報告があって、その場所に暗雲が立ち込めてんだから。すぐに霊圧は抑えられたがな。」
『えぇ。春水殿のお蔭で我に返ることが出来ました。あと少し遅かったら、僕は犯罪者になるところでした。危なかった。』
そんなことを言いつつも青藍は笑顔だ。


「青藍、怖いよ。」
「うん。怖いよ。昨日も怖かったけど。」
『あはは。僕なんかより、駆けつけた皆の方が怖かったでしょ。問答無用で危険物を手にしているんだから。父上なんか卍解する勢いだったよ。母上も鬼道を放つ準備が万全だったし。あのルキア姉さますら目が据わっていたからね。茶羅や師走や睦月は劇薬を取り出しているし。危なくて仕方がない。』
青藍は苦笑する。


「僕も雪乃も蓮さんも加賀美君も、巻き込まれて死ぬかと思ったんだからね・・・。」
「そりゃあ大変だったな。・・・で、咲夜さんはどうした?」
冬獅郎はそう言って、どことなく心配そうな視線を青藍に向ける。
『えぇ。もう、大丈夫です。母上の闇は完全に祓われました。』


「断言できるのか?」
『はい。』
青藍は即答する。
「随分自信があるみたいだな。」
『もちろん。理由は、母上を見れば解るでしょう。多分、今までに見たどの母上よりも、美しいですよ。父上の悩みの種が増えるくらいにね。』


「そうか。ならいい。・・・お前、わざわざそれを話しに来たな?」
『まぁ、そうですね。冬獅郎さんは事情を聞きに来たりはしないと思ったので。でも、きっと、冬獅郎さんは、自分で解ってしまう。そうでしょう?』
青藍に問われて、冬獅郎はため息を吐く。


「・・・どこまで解っている?」
冬獅郎は図るように青藍を見つめる。
『貴方が何を知っているのか、全て。・・・貴方は、漣家の力について、疑問を持ち始めている。何故、そのようなものが存在するのか。一体、それはどのような力なのか。何故、霊王宮が介入してくるのか。中央四十六室にも、大霊書回廊にも、その記載はないというのに。・・・といったところでしょう。』
二人の様子が変わったことに、乱菊、キリト、京は、目を丸くする。


「その通りだな。」
『そうでしょうね。貴方が見たもの、聞いたもの、それらを総合すると、そうなるでしょう。ですが・・・。』
「これ以上踏み込むな。・・・か?」
『えぇ。』
「何故だ?」


『それ以上踏み込めば、貴方は戻れなくなります。十四郎殿たちと同じように。キリトや、京たちと同じように。そして、苦しむことになるでしょう。掟に翻弄された貴方ならば特に。知らない方がいい事実があることも、冬獅郎さんはご存じでしょう。僕が請け負っている任務を知る冬獅郎さんならば尚更。』
冬獅郎は微かに顔を歪める。

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