色彩
■ 30.お年寄りは老獪

「・・・うん。そうだな。まぁ、深くは聞いてやらんぞ。お前らの惚気は聞き飽きた。」
そんな青藍の様子に、侑李は呆れたように言った。
『惚気じゃないし。昨日の深冬、本当に格好良かったんだよ。僕のために怒って、相手にビンタを食らわして、暴走しかけた父上や母上たちを抑えて。』
青藍は嬉々として話す。


「・・・その間、兄様は震えていたらしいですけどね。春水さんに宥められていたそうじゃないですか。兄様、かっこわるー。」
横で話を聞いていたらしい橙晴は小さく呟く。
『五月蝿いよ、橙晴。余計なことは言わないの。大体、橙晴だって、何、あの登場の仕方。突然転がり出て来るとか、吃驚するからやめてよ。』


「安曇様が僕から手を離すのが悪いのです。十五夜様も笑っているし。何なんです、あの糞爺どもは。」
橙晴は忌々しげに言う。


『まぁ、糞爺だから仕方ないよね。ああいうのを糞爺と言うんだよ。父上があの二人を糞爺という気持ちがよく解ったよ。』
「えぇ。僕もです。」
二人はそう言って頷き合った。


「・・・お前ら、あの二人を糞爺呼ばわりか。流石だな。」
そんな二人を侑李は怖いものを見るように見つめる。
『実際、糞爺だからね。昨日の件で安曇様は糞爺に格下げしました。』
「そうそう。ついでに安曇様にお菓子を与えるのは禁止になりました。まぁ、昨日の原因はほぼ安曇様にありますので、当然の措置でしょう。」


「それ、安曇様は生き延びられるのか・・・?あの人、ほぼお菓子で出来てんだろ・・・。つか、十五夜様は元々糞爺認識だったってことだよな。」
『・・・あの方は誰が見ても糞爺だよ。ね、橙晴?』
そういう青藍の目は据わっている。


「えぇ。誰がどう見ても糞爺です。それも碌な糞爺じゃありません。侑李さんも気を付けた方がいいですよ。ぽろっと口を滑らせますからね。しかも昨日は言い逃げしましたからね。最低です。糞爺の筆頭です。」
橙晴はそう言ってため息を吐いた。


『お蔭で僕、茶羅にあれこれ聞かれて、どうしようかと・・・。』
青藍は疲れたように苦笑する。
「別にいいんじゃないですか。遠からず茶羅も知ることだったのですから。」
『物事には順序というものがあるのだよ、橙晴。』
「その順序が滅茶苦茶だった人が何を言っているのやら。」


『僕はいいの!・・・あぁ、もう。僕はこれから暫く家臣たちにあれやこれやと無理難題を押し付けられて、馬車馬のごとく働かされるんだ・・・。茶羅のためにそれを引き受けるとか、僕、いいお兄さん過ぎない?』
「自分で言いますか、それ・・・。」
「流石青藍だよな・・・。」
侑李は苦笑する。


『はぁ。清家が知ったら、僕も父上も母上もお説教だろうなぁ。』
「それは・・・ご愁傷様です。」
『橙晴も他人事じゃないからね?その場を通り過ぎようものなら捕まえられて、巻き込まれるんだから!朽木家一同、清家から延々とお説教だからね!?』
青藍は想像したのか情けない顔をする。


「・・・清家さんって、流石だよな。」
侑李は同情するように言った。
「僕らなんかよりずっと長く朽木家に居ますからね。僕らでは歯が立ちません。銀嶺お爺様でもいらっしゃれば別ですが、銀嶺お爺様は隠居生活を謳歌しておりますからね。」


『そうなんだよ・・・。銀嶺お爺様も中々捕まらないんだよ・・・。ていうか、弥彦様と共謀しているんじゃないだろうか・・・。橙晴の祝言の時も電報を打ってきたから来ないのかと思ったら、知らないうちに弥彦様とお客様の席にいらっしゃるし。どういうことなの・・・。銀嶺お爺様は親族なのだけれども。そもそも、どうやって入り込んだのか・・・。』
青藍は大きくため息を吐く。


「母上の神出鬼没さは銀嶺お爺様に似ましたよね、絶対。」
『そうだね。そしてそれを楽しんでいるから質が悪い。何故こうも揃って老獪なのだろうか・・・。僕も早く老獪さを身に着けたい・・・。このままでは遊ばれるだけだ・・・。』


「はは。お前もいろいろ大変なんだな。ま、元気そうで良かった。じゃ、俺は戻る。無茶すんなよ、青藍。橙晴、雪乃を苛めるのは程々にな。じゃあな。」
侑李はそう言って去って行ったのだった。

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