色彩
■ 29.炎の人

縋るように、真っ直ぐに言われて、元柳斎はゆっくりと目を閉じる。
そして大きく息を吐いた。


「・・・そうか。我が身がそれほど重いということじゃな。」
元柳斎は呟くように言う。
そして目を開けた。
ひたと青藍を見つめる。


「ならば聞かぬ。じゃが、約束するのじゃ。儂にしかどうすることも出来ないことがあった時、その時は、儂にその話を聞かせ、儂の力を使え。それで儂の身が消えゆこうとも、迷いなく儂に話すのじゃ。そなたは儂が必要だと言うが、この世には十四郎も春水も咲夜も、そなたらも他の者たちも必要だと思うておる。それを守るのも、儂の役目なのじゃ。」


『・・・はい。その時には、迷いなく、貴方にすべてをお話しいたします。』
青藍はそう言って再び頭を下げる。
「そして、もう一つ。そなたら二人、心に刻め。・・・儂より先に逝くな。それだけは許さぬ。」
『「はい。」』


「他の者にも伝えておくのじゃぞ。・・・そなたらに苦悩があることを知りながらこのようなことを言うのは酷じゃろうが、長く生きると、それが辛いのじゃ。」
『はい。置いて行かれる方は酷く辛い。己の身を切り裂かれるよりも、ずっと。』
「そうじゃな・・・。」


『ですが、我々は前に進まねばなりませぬ。生きて、いるのですから。』
「そうじゃのう。・・・では、儂は帰る。儂の役目は此処には無いようじゃ。」
『えぇ。この場はお任せ下さい。』
元柳斎はそう言った青藍を見て、姿を消した。


「・・・また隠し事だ。」
緊張を解いた深冬はそう言って青藍はじとりと見つめる。
『さて。何のことかな。』


「本音の二割ほどしか口にしなかったではないか。重要な部分を隠してああいえば、総隊長が退くことも解っていた。言葉にした理由は本当だろう。嘘は吐いていなかったからな。でも、他にも理由があるはずだ。青藍は、総隊長に手を出してほしくないのだ。総隊長に知られてはいけないと思っているのだな?」
確信を持っていわれて、青藍は苦笑する。


『敵わないなぁ。・・・うん。そうだよ。あの方は、僕らの味方だけれどね、最大の敵でもある。あの方の身は重い。掟、理、法・・・。色々なものに絡め取られている。僕らの秘密は、そのどれもに抵触する。話しても秘密を漏らすことはないだろう。でも、何かあった時に、あの方は、僕らを助けることはしない。だからこそ、尸魂界に必要で、僕らの、護廷十三隊の総隊長なのさ。あの方は、護廷のためならその身を焦がす。灰になるまで燃え続ける。そういう方だ。』


「・・・だから、話さないのか?」
『うん。あの方には見守っていてもらう。それでいい。母上たちだって山本の爺には隠している。皆、それを解っているんだ。』
「そうか。じゃあ私は何も言わない。」
『ふふ。ありがとう。』
青藍はそう言って笑って深冬の手を取る。


『本当に、深冬が居て、良かった。・・・でも、今日も一緒に寝てくれる?』
ねだるように言われて、深冬は仕方がないと言った様子でため息を吐く。
「あぁ。それで、青藍がよく眠れるのなら。」


『うん。ありがと。でも、寝るだけじゃだめかも。深冬に触れたくなっちゃった。』
「な!?」
青藍の言葉に深冬は顔を赤くする。
『ふは。かわい。楽しみだなぁ。』
それを見て、満足げに笑い、青藍は深冬の手を引いて皆の元へ向かったのだった。


翌日。
「・・・あれ?青藍が普通に居る。」
仕事をしていた青藍の元に、侑李が顔を出した。


『普通にいるよ・・・?』
侑李の言葉に青藍は首を傾げる。
「え、だって、昨日、心臓を取られたって、聞いたぞ?」
『え。』
青藍は目をぱちくりとさせる。


「心臓を取られて心をなくした青藍が暴走して、それを朽木隊長や京楽隊長たちが止めたって、噂になってるぞ?昨日、霊術院に行った席官がそう話していた。死ぬほど怖かったとも言ってたけど。」
『・・・いやいやいや。心臓取られて生きてるわけがないじゃない・・・じゃなくて、何それ。蓮たちは一体どんな説明をしたの・・・。』


「違うのか?」
溜め息を吐く青藍に侑李は首を傾げる。
『うん。結構違う。蓮やキリトたちがそう説明したのだろうね。・・・まぁ、確かに、いろいろ隠して説明するとそうなるのか・・・。』


「結構?全部ではねぇってこと?」
『あはは・・・。暴走したあたりは本当。ちょっと箍が外れた。』
「げ。何それ。俺、その場に居なくて良かったわ。・・・心臓は取られてないのか?」
『当たり前でしょう。心臓取られて生きてるとか、僕、何者なの・・・。』
青藍は呆れたように言う。


「何だ。本当だったら、瀞霊廷通信の記事にでもしようと思ったのに。」
『ちょっと・・・。一体僕を何だと思っているの、君は・・・。』
詰まらなさそうに言う侑李に、青藍はじとりとした視線を向ける。
「はは。悪いな。ま、元気そうで何より。」


『ふふふ。僕には深冬と言う強い味方が居るのだよ。』
青藍は意味深に笑う。

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