色彩
■ 24.真実

「・・・あそこに居る彩雲と言う者、先見の才がございます。咲夜様がお生まれになった時、貴女様が今後世界の脅威になると、先見いたしました。それ故、貴女様を壊さねばならぬと、漣家の家臣とともに、あのような仕打ちを。貴女様のお婆様もまた、あれに唆され、それに加わったようでございます。」
その言葉に、咲夜は目を見開いた。


「咲夜様から、光を奪い、闇に貶めたのは、今、あそこに居る、彩雲の仕業にございました。あの方が咲夜様に加護を与えなければ、貴女様は今、この場にいることはなかった・・・。お詫びのしようもございません。」
安曇の言葉に沈黙が降りる。
咲夜は何かに耐えるように俯く。


「安曇・・・。その言葉が、どういう意味か解って言っておるのか。そなたは、それを、知っていたということか。」
白哉は怒りを滲ませながら、安曇を睨みつける。
「・・・はい。惨い、仕打ちだと、いうのは、重々、承知しております。」
安曇は苦しげに顔を歪めた。


「咲夜の苦しみは、全て仕組まれたものだと、いうのか・・・。それも、咲夜を壊すために・・・。あれが苦しむ度に、我らがどれほど、苦しんだと・・・。何度、救えないことを悔やみ、己の無力を嘆いたことか・・・。」
苦しげな安曇に、白哉は怒りをぶつけることも出来ず、自身も苦しげな表情をしながら呟くように言う。
「・・・世の理とは、そういうものに、ございます。」


「・・・・・・そうか。」
咲夜は小さく呟いて、顔を上げる。
「安曇。君が謝ることはない。そんなに苦しい顔をするな。」
「だが・・・。」
苦しげな安曇の頬に、咲夜は手を伸ばす。


「もう、いい。」
「本当に、すまない・・・。私が、もっと早く、長になれば、止められたかもしれぬ・・・。いや、そうではない。そうでなくとも、止めるべきだった・・・。」
「いいんだ。・・・私は、安曇を許す。お婆様も、家臣たちも、漣家も、許す。」
「咲夜・・・。」


「世の理は、簡単には変えることが出来ないのだ。安曇もそれで苦しい思いをした。それでも、あの方は、私に加護を与えてくれた。お蔭で、私は今、ここに居ることが出来る。だから、いい。あれがあったから私が今ここに居ることが出来るのならば、あれが私の定めだったのならば、私は、それを引き受けよう。青藍が、愛し子という役目を引き受けたように。」
咲夜はそう言って微笑む。


「咲夜、それでは・・・。」
咲夜の言葉に白哉は不満げだ。
そんな白哉にくすりと笑って、咲夜は白哉を振り返って抱き着く。


「私が許すと言っているのだから、いいのだ。私のために、怒ってくれて、ありがとう、白哉。君に愛される私は幸せだなぁ。愛しているよ、白哉。」
言いながら咲夜は白哉に擦り寄る。
暫くそうして、白哉から離れると、周りに居る者たちを見回した。


「皆も、怒りを鎮めてくれ。それでいい。浮竹も京楽も情けない顔をするな!君たちは隊長だろう!橙晴、斬魄刀をしまえ。隣で雪乃が震えているぞ。大叔父様は、春乃嵐を閉じてください。茶羅、睦月、師走は毒物・・・いや、劇物を仕舞え。ルキア、深冬、蓮、キリト、豪紀、七緒。そんな顔をするな。私は大丈夫だ。青藍、君はそれを知って怒ったのだな?それで、怒りを抑えられなかったことを、悔やんでいる。本当に君は優しい子だ。」
咲夜は皆に声を掛けて、彩雲を見つめる。


「彩雲、といったな。」
咲夜に見つめられて、彩雲は息を呑む。
強い輝きを宿している瞳に、翳りのない瞳に、気圧されたのだ。


「残念だったな。私は、壊れなかった。私はあの方に守られ、浮竹や京楽や山じいに守られ、朽木家に、白哉に守られ、救われた。烈さんが私の不安を拭ってくれた。ルキアが私を慕い、私の存在価値を示してくれた。睦月は私の傍でずっと私を見守った。子どもたちが、私を母にしてくれた。師走は私に上手く深呼吸をさせてくれる。私の教え子たちが、力を付けて私に力を貸してくれる。大叔父様はずっと私をその大きな力で守り通してくれている。安曇が私に真実を教えてくれた。七緒、キリト、蓮、雪乃、深冬、豪紀・・・ほかにも挙げれば切りがないほどに、私には仲間が居る!」
咲夜は真っ直ぐに言い放つ。


「私は、壊れない!世界を壊したいこともあったが、私の闇は、皆が祓ってくれた!壊したい世界などなくなったのだ!二度と闇に呑まれることもない!だから、私は、すべてを、許すぞ!貴方さえ、許す!私は今、死ぬほど幸せだからな!!」
そう言った咲夜は輝きで満ちていた。

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