色彩
■ 22.動く心臓

「・・・深冬の言う通りだな。」
そんな声と共に複数の影がその場に現れる。


「私の手が滑らぬうちに頷いたほうが身のためだ。」
白哉は既に千本桜を抜いている。
「そうだな。私も思わず鬼道を放ってしまいそうだ。」
そういう咲夜の掌には霊子が視覚化するほどに集められている。


「私も思わず手を出してしまいそうです。」
ルキアは何とか動きそうになる右手を左手で抑えていた。
「あら、ルキア姉さまがそこまで腹を立てるなんて、珍しいわね。まぁ、当然よね。わざわざ青藍兄様を追い詰めたのだから。私も今すぐにこの毒針を投げてしまいそうだわ。」


「御嬢さん、物騒ですねぇ。それは御嬢さんの仕事じゃありませんよ。俺の仕事です。」
師走はそう言って茶羅から毒針を取り上げる。
「馬鹿師走。毒殺するより、涅隊長にでも渡した方が有意義だろ。そのくらいしか使い道ないんだから。あの人なら喜んで受け取ってくれる。これ以上ない研究材料だからな。」
睦月は毒針を投げようとする師走を止めて、そんな恐ろしいことを言う。


「おい、お前ら。本当にやめてくれ・・・。着いた途端これか・・・。怒りは解るが、お前らが暴走したら、俺では止められないぞ・・・。お前ら、元柳斎先生の呼び出しを無視してこっちに来たことを忘れるなよ・・・。いい加減、先生への言い訳も尽きた・・・。」
浮竹はそんな彼らを見て遠い目をする。


「よかった。浮竹隊長は危険物を取り出していないみたいだ。ほんと、青藍に手を出すと、危険だよねぇ・・・。朽木隊長、斬魄刀から手を放したら、卍解しちゃうよ・・・。」


「私も命の危険を感じているのだけど、大丈夫かしら・・・。卍解なんてされたら巻き添えよね・・・。でも、霊圧がすでに上がりきっているわ・・・。」
「俺は既に生きている心地がしない・・・。皆、目が本気だぞ・・・。」


「僕、何で今日、ここに来ちゃったんだろう・・・。京に任せて僕が副隊長の監視係になればよかった・・・。」
四人もまたそう言って遠い目をする。
それを遠巻きに見ている視察団と院生たちは、既に顔を青くして動けないでいるのだが。


「白哉様。その気持ちは解りますが、斬魄刀はお仕舞い下さい。咲夜様も気を鎮めてください。どうしても鬼道を放つのなら、それを縛道にしてあれを捕獲してください。ルキアさんもどうか動かないでください。茶羅は次の毒針を出すな。師走もそれを取り上げて投げようとしない。睦月、回収した針に怪しげな薬品を塗るのはやめろ。お願いです。皆さん、それは後にしてください。今は、青藍が先でしょう。」


深冬は困ったようにそう言って、青藍の元へ向かう。
それに続いて、彼らは危険物を収め、青藍の元へ向かった。
咲夜は彩雲に六杖光牢を放っているが。


「深冬は、胆が据わっているなぁ。」
「あれに動じないなんて、一体どういうことなのよ・・・。朽木家に馴染みすぎだわ・・・。」
「雪乃も将来ああなるんだよ。きっと。僕らもその内慣れるんだろうなぁ。」


「え・・・。そう、なのかしら・・・?」
「はは。慣れというのは恐ろしいからな・・・。」
「慣れようが慣れまいが恐ろしいと思うのは、俺だけですかね・・・?」


「青藍。もう大丈夫だ。」
深冬はそう言って未だ震えている青藍を抱きしめる。
「もういい。何も怖くないぞ。私が居るのだから。私が、解るな?」
『深冬・・・?』
「そうだ。」


『・・・僕、許せ、なくて。ごめん。怖かった、でしょ。腕も、痛かった、よね。』
そう言って抱きしめ返した青藍に、深冬は苦笑する。
「本当に馬鹿な奴だ。人の心配をする前に、自分の心配をしろ。こんなに震えているのだぞ。それに、怖くなどない。青藍は、私と咲夜様のために怒ったのだ。自分のために怒ってくれている人を怖いと思う訳がないだろう。」


『深冬・・・。』
「・・・何故、それほど取り乱したのかは、聞かない。そんなになるくらいだから、話したくないのだろう。思い出すだけでも辛いのだろう。だから、私は、聞かないぞ。話したくなったら、話せばいい。」
『うん・・・。ありがと。』


「青藍。」
咲夜は深冬ごと青藍を抱きしめる。
『母上・・・。』
「また、辛い思いをさせた。苦しかっただろう。痛かっただろう。心臓を掴まれたのだから。私は、本当に、君を、苦しめる・・・。」


『いいえ。それは違います。僕が、母上の子でなければ、僕は、心臓を握り潰されているところでした。今日、助かったのは、僕が母上の子だからです。苦しくて、痛かったですけど、僕の心臓は、今も、動いています。』
青藍はそう言って小さく微笑む。

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