色彩
■ 20.掟と理

『・・・はぁ、は。私の、心臓は、すでに、漣家に、捧げてある。その術を、施したのは、霊妃様、だ。これ、は、呪いだが、それと、同時に、加護、なのだ。』
そこまで言って、青藍は咳き込む。
深冬たちがその背を擦った。
その間に、光は徐々に霧散していく。


『・・・ん・・・・はぁ、はぁ。ごほ。・・・私の、心臓は、私の、体が、朽ちても、動き続ける。霊妃様の、加護がある、限り。その心臓に、手を出すとは、愚かな、ことだ。』
「何、だと・・・?」


『私は、言ったはず、だ。私は、私ほど、煩わしい、存在を、知らない、と。今、ので、霊妃様は、嫌でも、私の危険に、気付いた、ことだろう。私と同じく、加護を賜った、者たちも、すぐに、こちらへ、やってくる。・・・霊妃様と、共に、貴女を、潰しにやって、くる。私が、望まずとも、愛し子を守るために。だからこそ、私は、誰よりも、煩わしい、存在なのだ。』
青藍の言葉に、彩雲は顔を青褪めさせた。


「何故・・・何故、この者に加護など与えるのだ!!!ただの若造ではないか!愛し子、だから、なのか・・・?」
彩雲はそう言って頭を抱える。


「何故、お前は苦しみを与えても、立ち上がる!!己が母の苦しみを知っても、心が折れぬ!!あの巫女も、あの巫女だ!!あれを穢せば、壊れるはずだった。何故、霊妃はあれを守った!!!!何故、世の理を捻じ曲げたのだ!!!何故霊王はそれを咎めぬ!!!」
その言葉に、青藍は顔色を変えた。


『・・・・・・あれは、貴様が、そうさせたのか。』
「ひっ!!」
青藍の低く、怒りのこもった声に、彩雲は軽く悲鳴をあげる。
『あれを、仕組んだのは、貴様かと聞いている。』
全身で怒りを顕わにする青藍に、彩雲は凍りついた。


箍が、外れてしまった。
目の前で怒る青藍に呆然としながらも、深冬はそんなことを思う。
青藍の霊圧が一気に上昇し、あっという間に周りの結界を消し飛ばす。
雪乃様たちも、誰一人として、体が動かないようだった。


近くに居るのに、近付く事が、出来ない。
掴まれていた腕が、離されてしまった。
きっと、今の青藍には、私が見えていない。
いや、目の前の「敵」しか見えていない。


これは、本当に、青藍、なのか・・・?
深冬がそれを疑うほどに、重く、濃い霊圧が青藍から発せられている。
青藍の霊圧に引き寄せられたのか、あたりに黒雲が集まり始めた。
稲妻が光り、雷鳴が轟く。


『・・・何故、何故あれ程の苦しみを与えた!!何も感じず、何も考えられず、ただひたすら、自らを傷付ける!!!今でも、語ることすら出来ない!!!誰にもだ!!!その闇を一人、ずっと、抱えている!!!!その苦しみを与えたのが貴様だというのか!!』
「・・・。」
彩雲は声も出ない。


『・・・答えろ。何故、我が母に、あのような苦しみを与えた!!!!』
青藍の怒りに感応するように、稲妻が空を埋め尽くす。
一箇所に収斂したそれは、彩雲のすぐそばに落雷した。


「・・・そういう、定め、が、ある。あれは世界を壊す。あれが生まれたとき、それが、視えた。世界を壊す者は、排除せねばならぬ。それが、我らの掟。・・・世の理、なのだ。」
彩雲は震える声で、何とか、声を出す。
その答えに、青藍は奥歯を噛みしめた。


また、掟。
また、世の理。
それらは一体何者か、と、幾ら問うても応えはない。
沸騰した頭の中で、青藍は内心で呟く。


「あれは、壊さねば、ならぬ。あれの父が、あれを殺すはずだった。だから、我らが手を下すまでもないと、思っていた。だが、あれは生き残った。生き残ったあれは、朽木の元で、守られた。特に、朽木蒼純。あの者の守りは、強かった。」


・・・あの暗闇の中で、母上に見えた光は、蒼純お爺様だけだった。
霊妃に見せられたものを思い出して、青藍は震える。
それが怒りからくるものなのか、恐怖からくるものなのか、今の青藍には解らない。


ぽた、ぽたり。
握りしめた青藍の拳から流れ出た血が、地面に零れ落ちる。
流れ落ちた血は霊圧の名残なのか、雷を放って蒸発していく。


「あれらを離してもあれらは繋がっていた。それが、咲夜を繋ぎとめた。断ち切ろうとしても、断ち切れぬ。苦しめても、光を奪っても、巫女は生きようとした。死にたいと願いながらも、無意識に生きようとする。」
彩雲は、目の前の青藍に震えながらも、言葉を紡ぎ続ける。


これ以上口にさせてはいけない。
これ以上聞いてはいけない。
駄目だ。
思い出すな。
そう思いながらも、青藍の体は動かない。


「それ故、私は、漣の、家臣を、唆し、あれから全てを奪おうと・・・その、からだ・・・。」
彩雲がそこまで言った時、後ろからその口を塞ぐ者があった。

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