色彩
■ 19.加護の発動

「そなたとて、その娘と安曇に出会ってからというもの、煩わしいことばかりであろうが。それを、我らが引き受けるというておるのだ。何故、それを断るのか。」
彩雲は苛立たしげに青藍を見つめる。


『・・・煩わしい?私が何時、そんなことを言った?』
一息ついて当主の顔になった青藍は、静かに問う。
その冷たい表情に、彩雲は目を軽く見開いた。


『煩わしいというのは、私のような存在を言う。私は、霊妃の愛し子。霊妃に愛され、霊王に目を掛けられ、こちらに居る身でありながら、霊王宮と関わり合う。世の理を知り、己の定めを知り、世の秘密を知る。その秘密は大きく、洩らせば世界の天秤は傾くだろう。私が、その中心にいることは間違いない。愛し子である故に、私は、世界を揺るがす。そういう者こそ、煩わしいというのだ。』
青藍は吐き捨てるように言い放つ。


『私は、我が身以上に煩わしいものを知らない。我が身は煩わしいが、私はそれを引き受ける。この煩わしさを引き受けるのだから、我が妻が煩わしいなどと考えるものか。故に、我が妻がどのような血筋であろうとも、煩わしいからといって貴女のような者に渡すことなど、有り得はしない。その上、我が妻を半端者と呼ぶのならば、それ即ち霊妃様を半端者というのと同じこと。貴女こそ、口を慎むことだ。』


「愛し子だからと、頭に乗るなよ、小僧。」
青藍の傲慢な口調に、彩雲は腹を立てたようだった。
その美しい唇から、地を這うような声が聞こえてくる。


「その娘を渡せ。」
『断る。』
「その身を滅ぼしたいか!!!」
彩雲の声はビリビリとその場に響き渡る。
『やってみるがよろしかろう。貴女ごときに滅ぼされる私ではない。』
青藍の静かな怒りが込められた声もまたその場の空気を震わせた。


「小僧・・・。身の程を知れ!・・・縛!!」
『っ!!!』
その一言で、青藍は身動きが取れなくなる。


「そなたを滅ぼすなど、造作もない。」
彩雲はそう言うと、青藍に近付いて、その胸に指先を当てた。
指先が光ってずるずると青藍の体の中へと手が入り込んでいく。


「そなたの心臓はこれか?」
彩雲はそう言って青藍の心臓を掴む。
『!!!!』
その痛みに、青藍は歯を食いしばった。


「青藍!」
深冬は苦しげな青藍を見て、声を上げる。
「ほれ。」
『!!!!』
再び掴まれて、青藍は痛みに耐えながらも彩雲を睨みつける。


「ほう。まだそんな余裕があるか。そなたの命は妾の手の中にあるのだぞ?その娘を渡すと、言え。その手を放せ。苦しかろう?痛かろう?まだ、生きたかろう?」
悪魔め。
痛みに呼吸すら忘れそうになる中で、青藍は内心で呟く。
それでも声一つ上げなかった。


『・・・断る、と、言っている。二度も、言わせるな。』
痛みに耐えながら、絞り出すようにそう言った青藍に、彩雲は冷たい視線を向ける。
「・・・まだ声が出るか。これでは、どうだ?」


『ぐ、あ、あぁぁぁ!!!!』
心臓を思い切り掴まれて、青藍は耐えきれずに声を上げた。
その断末魔に、深冬は顔を青くする。
結界の外に居た蓮たちもその叫び声が結界の外まで響いたのか中へ入ってくる。
そして目の前の光景を見て、言葉をなくした。


「・・・青藍。青藍!!駄目だ!放せ!!早く、この腕を、放してくれ!!!!!」
深冬は青藍の手を外そうとするが、青藍は彼女の腕をきつく握りしめる。
「強情なことだ。」
『ぐ、あぁ・・・は、ど、ちが。わ、たし、は、ことわると、いって、いる。』


「・・・ならば死ね。」
そう言って再び手に力を入れようとした時、青藍の体に紋様が浮かび上がる。
「何!?」


バチ、バチィ!!!!
その紋様が輝いて、彩雲の手を青藍の体から弾き出す。
光が青藍を守るように包み込んで、彩雲はその光に弾かれて後ずさる。
しかし、深冬は弾かれることなく青藍と共に光に包まれた。


『は、はぁ・・・。』
縛りが解けて、青藍は息を切らしながら、その場に崩れ落ちようとする。
深冬はその体を何とか支えた。


「「「青藍!!!」」」
それを見て、雪乃、キリト、蓮の三人が青藍の元に駆け寄る。
豪紀は彩雲と青藍の間に滑り込んだ。
彼等もまた、光に弾かれることはない。


「何だ、それは・・・!?」
彩雲は光に焼かれた己の手を見て、信じられない様子で青藍を見る。

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