色彩
■ 17.視察

「・・・まぁ、不機嫌。」
蓮はポツリと呟く。


「ですよね・・・。」
「あれは、治るのかしら・・・?」
「あはは。暫くあのままじゃないかな。深冬でも来れば別だけど。」
「やっぱり、その手しかないんですね・・・。」
四人は大きなため息を吐く。


「まぁ、朽木三席よ。」
「本当だ。朽木三席だ。上位席官の前にしか姿を見せないと噂の。」
「こんなに近くで見るの、初めてだ・・・。」
そんな四人の耳にそんな声が聞こえてくる。
慌てて四人が青藍を見ると、さらに機嫌が急降下しているようだった。


「青藍?」
そこへ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
四人が振り返るとそこにはまさに必要としていた銀色がいる。
青藍はその人物を見て、思い切り抱き着いた。


「な、青藍!?何だ!?仕事中だぞ!?」
『・・・あぁ、癒される。』
わたわたと暴れる深冬をがっちりと拘束して青藍はほっと一息を吐いた。
「青藍?何かあったのか?」
青藍の様子に深冬は首を傾げる。


『父上に、仕事を押し付けられた・・・。』
「いつものことだろう。」
『書類仕事じゃなくて、霊術院に視察に行かなくちゃならないんだよ・・・。』
「なんだ。六番隊は青藍なのか。それなら、私も行く。」


『・・・え?』
深冬の言葉に青藍は目を丸くする。
そして深冬の肩に手をのせて距離を取った。
『え、深冬も、行くの・・・?』
「そうだが?」
深冬は首を傾げる。


『本当に?』
「あぁ。席官の皆は忙しいようなので、私が来たのだ。咲夜様が来たがったのだが、浮竹隊長がそれを止めたので私になった。」
『・・・そっか。深冬も一緒なのか。』
青藍はそう言って嬉しげに深冬の手を取った。


「な、青藍!?仕事中だと言っている!放せ!」
深冬はそう言って青藍の手から逃れようとするが、青藍は放す気がないらしい。
『いいじゃない。』
にこにこと笑う青藍に、深冬は早々に諦める。


「・・・霊術院の中に入ったら、離すぞ?約束だからな?」
『あはは。はーい。』
青藍は返事をしながら指を絡めた。


「・・・一瞬で機嫌が直ったな。」
「そうね・・・。流石深冬ね・・・。」
「深冬ちゃん、青藍の扱いに慣れてきたよね・・・。」
「流石妻だね。・・・あーあ、他の席官たちが唖然としてる。」
「まぁ、仕方ありませんね。青藍の変わり身の早さに付いて行けないのだわ。」
「青藍、相変わらずだなぁ。」


そんなこんなで霊術院に到着する。
霊術院の門の手前で青藍と深冬の間に一悶着あったが、青藍は渋々深冬の手を放したのだった。
それでも、ぴったりと深冬の隣に居るのだが。


へらへらとしている青藍を隠すように、雪乃、キリト、豪紀、蓮の四人が、彼らの周りに立って壁を作る。
と言っても、長身の青藍の顔を隠すことは出来ていないのだが。


他の隊の者たちはそんな青藍の姿に苦笑した。
女性陣の中には羨ましげな視線を送る者がちらほらと居るのだが、まぁ、それでも幸せそうな夫婦に微笑ましい視線を送り始める。
そんなことがありつつ、視察が始まったのだった。


・・・左から三番目。
前から五番目。
教室に入った青藍は、力のありそうな院生に目星を付ける。
腕を組むふりをして、袖の中にある紙にそれを書きつけた。


あと、右端の一番前、かな・・・。
何か分厚い書物を読んでいるみたいだ。
教師がそれを咎めないあたり、優秀なのだろう。
周りの院生たちとは印象が違うし。


院生の前に出てから雰囲気が変わった青藍に、一行は目を丸くする。
そして、自分の役目を思い出したように、次々と院生に視線を奔らせる。
青藍と豪紀の姿を見た教師たちは冷や汗をかきながら授業を続けている。


「・・・!!!」
次の教室に向かうと、そこには睦月の姿があった。
青藍を見て、目を見開くが、何事もなかったように授業を続ける。
その姿に、深冬たちは笑いを必死で堪える。
青藍は小さく口角を上げた。


『・・・流石「草薙先生」ですねぇ。』
小さく、呟くように言った青藍だが、授業中の静けさの中ではその声は良く響く。
その声に睦月は青藍を睨みつけた。


『おっと、つい。申し訳ない「草薙先生」。』
青藍はそう言って微笑む。
「構いませんよ、「朽木三席」。」
睦月も負けじと微笑んだ。
朽木三席、という言葉に、院生たちはチラリと青藍を振り向く。


「皆さん、授業中ですよ。」
『おや、邪魔をしてしまいましたか。』
「いいえ。そんなことはありませんよ。僕の授業が退屈なのでしょう。四番隊でもなければ、薬学の知識はさほど必要ではありませんので。」
『なるほど。・・・どうぞ、授業をお続けになってください。』
「えぇ。そう致します。」


今の会話を聞いて、震えているのは二人。
鋭い子には僕らの偽りが見えたはず。
このクラスはあの二人だな。
あとで睦月に聞いておこう。
青藍は内心で呟いてその二人を書きつける。

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