色彩
■ 16.不機嫌

そんなある日。
「青藍。仕事だ。行って来い。」
隊主室から出てきた白哉は、唐突に一枚の書類を青藍に差し出した。
それを受け取って目を通す。


『・・・「霊術院視察のお知らせ」・・・。』
青藍は嫌な予感がして白哉を見る。
白哉は素知らぬ顔で新たな書類を手に取った。


『・・・だ「橙晴はこれから任務がある。」』
橙晴に頼もうとした青藍だが、それは白哉に遮られる。
『・・・父上が行くべきでは?隊長格って書いてありますけど?』
青藍は不満げにその部分を指さす。


「私の代理で行って来い。そもそも、隊長格が自ら出向く隊などない。皆席官に行かせている。」
『・・・れ「恋次は今副隊長会議に出ている。」・・・そうでした。・・・ん?』
またもや遮られて青藍は書類を見つめる。
そして、あることに気が付いた。


『・・・父上。この書類が届いたのは、先週のようですね?』
青藍はじろりと白哉を横目で見つめる。
「・・・そうだな。」
白哉は気まずげにそういうと、隊主室の方へと足を向けた。
『何故、今日、渡したので?』
白哉は返事をすることなく隊主室へと歩き出した。


『・・・最初から僕に行かせるつもりでしたね・・・って、居ない!?』
青藍が振り向いた時には時すでに遅し。
白哉の姿はそこにない。
青藍は思わず書類をぐしゃりと握りしめる。


『父上・・・逃げたな・・・。』
地を這うような声が青藍の口から洩れた。
それを見ていた橙晴は、触らぬ神に祟りなし、と素知らぬ顔で次の書類を手に取る。
隊士たちもそれに倣って、見なかったふりをして仕事を続けた。


『・・・ふふ。そっちがその気なら、僕にも手があります。次の非番、母上とずらしてやりますからね・・・。』
不気味に笑いながら、青藍は呟く。
その様子に隊士たちは震えあがる。


『・・・橙晴!』
「うわ、はい!?」
橙晴は突然呼ばれて飛び上がる。
『今僕の机の上にある書類を、父上の机の上に移動させなさい。父上が隠れている間に。それが出来なかったら橙晴が処理すること。どうせ、橙晴も一枚噛んでいるんだよね?』


「・・・すぐにお持ちします!」
にっこりと言われて橙晴はすぐに青藍の机の上から書類を攫って隊主室に駆け込んでいく。


『・・・はぁ。仕方がない。行ってこよう。皆、後よろしく。』
その背中を見送って、青藍は霊術院へと向かうことにしたのだった。
青藍が出ていって、隊士たちがほっと一息ついたのは言うまでもない。


「あら、青藍じゃない。」
「あ、本当だ。」
「何だ。お前も犠牲者か。」
青藍が視察団の集合場所に向かうと、雪乃、キリト、豪紀の三人が声を掛けてきた。


『あら?君たちも犠牲者?あはは。仲間だねぇ。』
青藍はそう言って笑う。
「犠牲者って何よ・・・。私は普通に来たわよ・・・。」
「僕も。日番谷隊長が行けってさ。京は松本副隊長の監視中だからって。」
「俺は意味が解らない理由で平子隊長に押し付けられたぞ・・・。」


『はは。僕なんてさっき行って来いって父上から言われましたけど?で、橙晴は任務があるからいけないし?恋次さんは副隊長会議だし?じゃあ自分で行けって話だよね。それなのに振り向いたら父上の姿は消えているし?ほんと、どういうことなのかな・・・。』
にこにこと笑いながら言う青藍だが、その瞳は笑っていない。


「・・・あいつ、今、危険物じゃないか?」
「そうね・・・。何事もないといいのだけれど・・・。」
「僕らじゃ、止められないよ・・・。」
そんな青藍を見て三人はひそひそと会議を始める。


「あれは、どうするのが一番いいんだ?」
「・・・この場合、機嫌を直すには深冬が効果覿面だけれど。」
「流石に、平隊員は来ないよな・・・。」
「でも、咲夜さんが来るかも・・・?」
キリトの言葉に雪乃と豪紀はそれだ!と言う顔をする。


「・・・でも、それはないわね。朽木隊長が逃げたのだもの。咲夜さんが来るわけないわ。」
「確かに。咲夜さんが来るなら朽木隊長も来るか・・・。」
「せめて南雲三席とかが居てくれると助かるんだけどな・・・。」


「呼んだ?」
「「「!!??」」」
突然聞こえてきた声に、三人は驚いたように振り向く。
そこにはにっこりと微笑む蓮が居る。


「蓮さん!」
「いい所に!」
「流石南雲三席です。」
三人は天の助けとでも言うように、蓮を引っ張って会議に参加させる。


「何、どうしたの・・・?」
困惑したような蓮に、雪乃が青藍を指さす。
不機嫌そうな青藍を見て、蓮は納得したように頷いた。

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