色彩
■ 15.結局子ども扱い

『睦月。僕の近くで、僕のために、僕を見守っていてくれ。』
「あぁ。」
『僕の力に、なってくれ。』
「もちろん。」


『僕を楽しませろ。生きることに飽きさせるな。身動きの取れない僕を、鎖につながれた僕を、生かしてくれ。僕の目となり耳となり、手足となって。』
「無茶苦茶な注文だな。ま、いいぞ。引き受けてやる。」


『・・・そばに居ろ、睦月。僕は君を欲する。』
真っ直ぐにそう言われて、睦月の体は小さく痺れる。
こういう命令は、悪くない。
やはり、これは龍なのだ。
誰にも屈することの無い、支配する側の、大きな龍なのだ。


俺も、そちら側のはずだったんだがな。
やっぱり、青藍は白哉さんの息子だ。
この俺が、人生で二度も他人に屈することになるとはね。


「・・・やっと言ったな。その言葉、忘れるなよ。」
『もちろん。君が言わせたんだ。君こそ、忘れるな。』
「あぁ。当たり前だ。死んだってそばに居てやるっつーの。」
『あはは。それじゃ、やっぱり睦月は幸せになれないね。』
青藍は悪戯に笑う。


「俺が選んだ道だ。何があろうと、俺の責任だ。それならそれで、どうにかする。」
『ふぅん?じゃ、僕、好き勝手しようっと。思い切り睦月のこと振り回してやる。』
「簡単に振り回せると思うなよ。俺はそんなに軽い奴じゃないからな。」


『そんなこと、知っているさ。ルキア姉さま一筋の重い奴だもんね。片想い長すぎ。』
青藍はからかうように言う。
「お前に言われたくないっての。お前なんか、深冬一筋の滅茶苦茶重い奴だろうが。堂々と見えるところに痕つけやがって。」


『堂々とじゃないし。ちらちらと見える程度の所だし。深冬が髪を降ろしていれば、見えないもん。橙晴みたいに見えるところに付けてないもん。』
「余計質悪いわ!そうやって近づいた奴だけが気付くようにしてんだろ。」


『いいんだよ。深冬は僕のものなんだから。』
そんな言い合いをして、二人は睨み合う。
そして可笑しそうに噴出した。


『今更、何をやっているんだろうね、僕たちは。』
「ほんと、今更だな。」
『うん。・・・でも、ありがとう。』
「礼なんかいらない。」
気恥ずかしさを隠すように素っ気なく言った睦月に、青藍は小さく笑う。


『それでも、ありがとう。母上の傍に居てくれたことも、僕の傍に居てくれたことも、父上の怪我を治してくれたことも、霊術院で深冬を見守ってくれたことも。全部、全部、ありがとう。』
「馬鹿。ただの仕事だっつーの。」
『素直じゃないなぁ。』


「五月蝿い。・・・大体なぁ、お前が礼を言うべき相手は、腐るほどいるだろ。俺なんか後回しでいい。もっと、周りのやつに言ってやれ。俺に出来るなら、他の奴にも出来るだろ、おねだり。」
からかうように言われて、青藍は唇を尖らせた。


『おねだりとか言うと我が儘みたいじゃないか・・・。』
「お前の我が儘なら、皆が全力で叶えようとする。」
『何それ。』
「子どもは子どもらしく我が儘で居ろって話だよ。」


『・・・それ、僕のこと?』
「さぁな。俺からすれば、お前も橙晴も茶羅もルキアも皆子どもだからな。」
『結局僕も入ってるし・・・。』
不満げな青藍に、睦月は笑う。


「指を咥えて見ているだけ、なんて、お前の性分じゃねぇだろ。深冬を巻き込んだように、皆巻き込んじまえよ。自覚があろうとなかろうと、お前は竜巻なんだから。」
『さっきから暴言を吐かれているよね、僕。』
「そう聞こえたか?」
『聞こえた。』


「でも、それだけじゃないんだろ?」
全てを見透かしている睦月の瞳は、楽しげだ。
『・・・いつも小言ばかりの癖に、たまにそういう睦月は狡い。子ども扱いする癖に、突然対等になるなんて、狡い。』


「この俺が対等だと認めてるんだ。喜べ。」
『何なの、その、俺様何様睦月様。』
「良いだろ、別に。・・・さて、そろそろ仕事に戻るか。」
『書類、よろしく。』


「はいはい。お前も道草食ってると白哉さんに叱られるぞ。つうか、これ以上技局に居ると鵯洲たちに群がられるぞ。研究されても知らねぇからな。」
『それは嫌だからすぐに行くよ。』
「よろしい。じゃあな。」
睦月は青藍の頭を一撫ですると、研究室に戻っていく。


『やっぱり、子ども扱い・・・。』
撫でられたことに不満げな顔をしながらも、青藍も仕事に戻ることにしたのだった。

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