色彩
■ 14.欲しいと言え

「・・・俺は。」
『ん?』
「俺は、離れないからな。」
睦月の言葉に青藍は目を丸くする。


「何があろうと、俺は、お前から離れたりしないからな。お前が要らないと言っても離れない。だからお前は、俺が欲しいと言え。お前が欲しいのは、深冬だけじゃないはずだ。他にも、お前にとって必要な者たちが居るだろう。お前は、それらすべてを、欲しいと言っていいんだ。まず、手始めに、俺が欲しいと、言ってみろ。」


『・・・・・・そんなこと、出来ないよ。』
青藍は小さく呟く。


「出来るさ。お前が望めばそれくらいは出来る。お前は籠の鳥だ。その上鎖で繋がれている。そこから解き放つことは誰も出来ないだろう。お前自身がそう望んだのだから。だが、お前が呼べば、皆が傍に来ることを忘れるな。茶羅だって、お前が呼べばすぐに飛んでくる。お前の両親も、ルキアも橙晴も雪乃も。深冬や師走、京楽さんや浮竹さん、卯ノ花さん。南雲や加賀美、朝霧たちだって、お前が欲せば飛んでくる。お前は、もっと、我が儘でいい。」
睦月に言われて、青藍は泣きそうになる。


「何で、お前ばっかり我慢してんだよ。愛し子だろうが、当主だろうが、お前が、お前自身を捨てていいことなんて、一つもないだろうが。それ以上、我慢するなよ・・・。一人になる準備なんか、するな・・・。欲しいと、言えよ・・・。」
言いながら、睦月は泣きそうになる。


似ているのだ。
青藍と咲夜さんと、俺は。
己の持つものをよく知っている故に、常に孤独と隣り合わせで。
求める世界と囚われた世界の差異が苦しくて、ずっともがいている。
そんな世界に大切な者たちを引き込むことは出来なくて、その苦しみを一人で背負うしかない。


だが、周りに居る者たちは。
そんな俺たちを見て、悲しんだり、己の無力を嘆くのだ。
咲夜さんや青藍を見て、俺が見守る側になって、それに初めて気付いた。
それがどんなに苦しいことかも。


「・・・お前の孤独を理解することは出来ないさ。お前が俺の孤独を理解できないようにな。だが、理解できなくても、受け止めてくれる人たちが、俺にも、お前にも、居るだろう?」
『それは、そうだけど。でも・・・。』


「まだ言わないか。それじゃ、言い易くしてやる。・・・俺は、俺自身を、朽木家が受け止めてくれた。それだけでも有難いと思ったのに、お前らは俺を家族だとまで言ってくれる。俺は、その恩を返したい。だが、お前がそれを望んでくれないと、俺にはそれが出来ない。だから、言ってくれ。堂々と巻き込めよ。いくらでも付き合ってやるから。」


『言って、いいの・・・?』
青藍は、そう言って唇を噛みしめる。
「当たり前だ。此処まで言ってやったのに、欲しいと言わないなら、俺は朽木家から姿を消すからな。」


『そ、それは駄目!』
「じゃあ言え。」
『でも、そうしたら、睦月、幸せになれないかもしれないよ?』
「幸せなんか、探せばいくらでもある。俺は、大きな幸せが欲しい訳じゃない。誰かの苦しみの上に成り立つ幸福なんか、俺はいらない。」
真っ直ぐにそう言われて、青藍は顔を歪める。


「だから、お前は、もっと我が儘でいい。お前を一人にする奴なんか、お前を一人にしたい奴なんか、お前の周りには居ないんだよ。どれもこれも厄介者で、厄介なことしか起きないが、それでも、誰かを思う気持ちは皆一緒だ。だから、言え。お前は、欲しいと言っていい。」
睦月は凛と言い放つ。


『・・・・・・ふは。』
そんな睦月に、青藍はへにゃりと笑う。
泣きそうな、でも少し嬉しそうな笑みである。


「情けない顔してんなよ・・・。お前は、お前から離れていこうとする者に手を伸ばしていいんだ。引き留めて、いい。手に入れていいんだ。全部とは言わないが、その者の一部はお前が貰ってもいいんだ。解ったな?」
『うん・・・。ありがと、睦月。』


青藍はそう言って瞼を閉じると深呼吸をした。
そして、瞼を開く。
その瞳は力強く、眩しいくらいに輝いている。
欲しいおもちゃを前にした、子どもの様だ。


これをいつも隠しているというのだから、本当に困った奴だ・・・。
隠し事が上手すぎるのも問題だな。
周りが思うほど強い奴じゃないのに弱さを見せないから質が悪い。
いや、まぁ、俺も人のことは言えないか。
睦月は内心苦笑する。

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