色彩
■ 5.大空と大樹に

『・・・話が逸れましたね。つまりですね、朽木家は全員が、欲しいと思った者に手を伸ばして、捕まえてしまうのです。』
青藍は悪戯に笑う。


『そしてそれは、茶羅も同じですよ。あの子は、欲しいものを掴みとるためなら、何処までも飛んでいくでしょう。どんなに苛酷な環境でも、道を切り開く子です。今はまだ、僕らの手の中に留まってくれていますけどね。いつかきっと、僕らの手から離れていく。力強く羽ばたいて、誰よりも気高く、美しい輝きを絶やさずに。』
その横顔は少し寂しげだ。


『あの子に、貴族と言う鳥籠は必要ありません。あの子が最も美しいのは、大空を舞っている時です。父上も母上も、皆が、それを解っています。あの子がそうあることを、望んでいます。・・・この言葉の意味が、解らない燿さんではないはずです。』
青藍はそう言って微笑む。


「・・・俺は、本当に、望んで、いいのかい?この想いを口にして、あの子は、苦しまないかい?」
泣きそうに言う燿に、青藍は苦笑する。
『苦しむでしょうね。』


「それでは・・・。」
『でも、それは、覚悟の上でしょう。あの子は、自分で、決める。・・・貴方にもその覚悟があるのなら、反対するものなど、居りません。反対するものが居たとしても、僕が味方になりましょう。そして、反対できないくらいには、幸せになって頂きます。茶羅にも、貴方にも。』


俺が今話しているのは、朽木家の当主であり、兄である朽木青藍だ。
俺は、この人の前で、覚悟を示さなければならない。
真の言葉を語らなければならないのだ。
青藍の表情を見て、燿はそう直感する。


「俺は・・・。」
燿はそう言って青藍を見つめる。
見つめ返す青藍の瞳に気圧されそうになりながらも、燿は言葉を紡ぐ。
「俺は、あの子が、欲しい。でも、俺には、何の力もない。俺の血筋をそう簡単に明かすことも出来ず、霊力も中途半端で、あの子を守り切れるかどうかは解らない。」


『では、諦めますか?』
「いいえ。あの子が俺に手を伸ばすのならば、俺もあの子に手を伸ばします。そして、一度掴んだら、二度とその手は離しません。何があろうとも。」
『ですが、あの子には大空が必要です。』


「解っています。あの子が最も美しいのは、大空を羽ばたく姿です。自由に飛び回る姿です。ですから、俺が、あの子の空になりましょう。あの子が何不自由なく飛ぶことのできる空に。それから、羽を休めることのできる、大きな木になりましょう。雨風を凌ぐことが出来るように、大きく枝を伸ばし、葉を茂らせましょう。」


琥珀色の瞳が、力を宿して、青藍を見つめる。
それを見て、青藍は小さく微笑む。
やはり、この人は、蓮の兄だ。
そして瑛二さんの息子だ。
茶羅を攫って行くのは、やはり、この人なのか。


『この、朽木家当主たる朽木青藍が、貴方の覚悟を受け止めます。茶羅が貴方を選び、貴方が茶羅を選ぶのならば、私は、貴方方の力になりましょう。当主としてまともな判断でないと言われようとも、私が茶羅を解き放ちます。・・・これでは、反対することも出来ませんねぇ、父上?』


青藍がそういうと、白哉が姿を見せる。
「!!!!」
その姿に、燿は目を見開いた。


「いつから気付いていた?」
『隊舎を出たときから。全く、何時の間に隊主室を抜け出したのですか?』
青藍は困ったように言う。
「貴族連中が来た時に。総隊長への書類があったのだが、あれらに顔を出すと煩わしいので、窓から出かけた。」


『なるほど。それで、帰ってきたら僕らの姿を見つけたと。』
「そうだな。」
『盗み聞きはいけませんよ、父上。』
「そなたに気付かれるとは、私もまだまだだな。」


『反省する気はないのですね。まぁ、いいですけど。・・・それで、父上、如何いたしますか?』
青藍は楽しげに問う。
「如何するも何も、茶羅が自分で選んだのだ。茶羅は昔から燿しか見ておらぬ故、いずれ、こうなるだろうと覚悟はしていた。」


『おや、お気づきでしたか。』
「気付かぬふりをしていただけだ。茶羅は私に知られたくないようだったからな。」
『ふふ。敵いませんね。』


「まだまだ、そなたに負けるつもりはない。・・・燿。」
白哉はそう言って燿をひたと見つめる。
「はい。」
燿は驚きながらも、真っ直ぐに見つめ返した。


「・・・そなたの覚悟、しかと受け取った。茶羅を、頼む。」
白哉の言葉に、燿は目を丸くする。
「いい、の、ですか・・・?」
そう絞り出すように言った燿に白哉は苦笑する。

[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -