■ 4.冗談でも辛い
「あれ、茶羅。師走はどうしたの?」
『本当だ。師走の気配が近くにないね。』
二人はそう言って眉をひそめる。
「弥生さんを追いかけているのじゃないかしら。行きたそうだったから、行かせてあげたわ。」
『全く、護衛が何をやっているのだか。・・・でも、漸く、顔を合わせたわけだ。』
「えぇ。数百年ぶりの再会よ。あれだけ通っていて今まで顔を合わせなかったというのも面白いけれど。」
『それじゃ、仕方ないか。ちゃんと代わりの護衛も寄越してきたみたいだし。』
「その辺は抜かりなくやってくれるのよね・・・。いらないって言ったのに。」
茶羅は不満げだ。
『茶羅を一人にしたら、僕らが師走を苛めるからね。』
「兄様方、心配し過ぎよ。今日は燿さんが居るのに。」
「はは。俺などでは茶羅の護衛は務まらないよ。」
燿はそう言って笑う。
「嘘だわ。私、知っていますもの。燿さん、昔から母上に鍛えられているのでしょう。だから兄様方は私が琥珀庵に行くことを咎めないのだわ。刀を握らないのはお菓子を作るためなのでしょうね。体だって細く見えるだけで鍛えられているわ。お菓子作りも力が必要だけれど、それにしたって引き締まり過ぎよ。大体、あれだけ食べていて、太らないのよ?そういう体質だとしても、そこそこ動かなければその体型は維持できませんわ。」
「そんなことはないさ。俺のは護身程度のものだよ。蓮や晴が死神になっているように、俺にも霊力があるからね。少し、鬼道で応戦できる程度さ。」
「それも嘘ね。琥珀庵にあれだけの結界を張ることが出来るのだもの、鬼道においては上位席官クラスなのは間違いないわ。」
茶羅に詰め寄られて、燿は苦笑する。
『・・・ふふ。燿さん、見抜かれていますねぇ。』
「ま、実際燿さんは見た目からは想像できないくらい腕が立ちますものね。あの結界は確かに見事なものですし。結界に見えない結界ですから。茶羅もあれが結界だと気が付くとは流石だね。」
「馬鹿にしないで。私だって、朽木家の教育を受けて育っているのよ。」
茶羅はそう言って頬を膨らませる。
『あはは。燿さん、どうします?茶羅にばれちゃいましたけど。死神になりますか?』
青藍は楽しげに問う。
「やめてくれよ、青藍君。俺は、一介の菓子職人だ。刀を握るより、泡立て器を握っている方がお似合いさ。」
『そうですか。それは残念ですねぇ。』
二人はそう言って微笑みあう。
「それじゃ、俺はもう行くよ。日番谷さんと浮竹さんからも注文があったからね。」
『そうなのですか?じゃ、僕も行こうかな。丁度渡したい書類があるのです。・・・あ、茶羅。』
「何ですか?」
『父上にお茶でも出してあげなさい。今日は母上が任務に出ていてここに来ていないから、ずっと仕事をしているんだ。』
青藍は困ったように言う。
「解りましたわ。」
『橙晴も一緒に休憩してね。まだ休憩していないの、ちゃんと知っているんだから。』
「そういう兄様だって、まだ休憩を取られておりませんが。」
『僕はいいのさ。これから書類を渡すついでに、燿さんとお散歩してくるよ。じゃ、行きますか。』
青藍はそう言って燿を伴って執務室から出ていく。
「・・・それで、青藍君。俺に何か用かい?わざわざ茶羅を置いてきたようだけれど。」
六番隊舎を出てから燿は口を開く。
『少し、息抜きに。あと、先ほどの燿さんが、少し苦しげだったので。あれでは慶一殿に気付かれたかもしれませんよ。あの方、そういうことにやたらと鋭いですから。』
青藍は苦笑する。
「あー、ね。うん。冗談なのは解っているのだけれど。」
燿もまた苦笑を返す。
「ちょっと、最近、隠せなくなってきたみたいで。茶羅も茶羅で女の子から女性になって行くから。」
困ったように呟いて、燿は目を伏せる。
『ふふ。辛いですねぇ。知らない一面を見ると、どきりとするんですよね。』
「そうそう。・・・でも、この想いを簡単に口にしていけないことは、俺が一番よく解っている。俺はただの菓子屋で、茶羅は朽木家の姫なのだから。」
苦しげに言う燿を見て、青藍は小さく笑った。
『そんなことは、ないと思いますけどねぇ。』
「え?」
青藍の穏やかな声と言葉に、燿は顔を上げる。
『父上は、流魂街の女性を妻にしたことがあります。ルキア姉さまの実の姉、緋真様。』
「それは聞いているけれど・・・。」
『僕も橙晴も、好き勝手やって、欲しいものを手に入れました。母上は、自分がどういう存在なのか解った上で、父上と共に歩むと決めました。父上への隠し事もまだたくさんあることでしょう。一生、話すことはないかもしれません。母上の闇は、深いから。』
「そうなのかい?」
『えぇ。今の母上と昔の母上は大きく違うでしょう。結婚して子供を産むなど、誰も予想していなかったことでしょうね。』
そう言って青藍は小さく笑う。
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