色彩
■ 3.シュークリーム

「お父様。悪乗りはお止め下さいませ。お母様に叱られますわよ。」
「珠季は最近、私の相手をしてくれないのだもの。」
慶一は詰まらなさそうに言う。


「それはお父様がそうやって軽口を叩いているからだわ。そんなことをしていると、お母様にそっぽを向かれるのだから。朽木家の殿方のように、真っ直ぐに愛さなければ女性はすぐに逃げていくものよ。」
「そうかな。では、青藍君たちに、妻の愛し方でも教えて頂こうかな。」
慶一は楽しげに青藍と橙晴を見やる。


『ふふ。慶一殿、それは人それぞれにございましょう。』
「青藍兄様の言う通りです。私たちには私たちの、慶一殿には慶一殿の妻の愛し方がありましょう。私たちが教えられることなど、何もございませんよ。」
青藍と橙晴はにっこりと答える。


「君たちは妻の話をしたがらないから、おじさんたちは詰まらないなぁ。そう思いませんか、秋良殿?」
二人の答えに慶一は詰まらなさそうである。
「そうですねぇ。ですが、この方々は手強いですよ、慶一殿。何せあの白哉様のご子息たちですからね。白哉様は今でも咲夜様について語ることは殆どありません。」
秋良も詰まらなさそうに言った。


「親子揃って手強いことだ。まぁ、気長に行きましょうかね。」
「そうですね。私たちは暇を持て余しておりますから。」
「はは。確かにそうだ。・・・では、そろそろ移動いたしましょう。あまり長居をしては青藍君たちにご迷惑をお掛けしてしまいます。」


『大したおもてなしも出来ずに申し訳ございません。』
「いや、構わないよ。忙しいのは承知しているからね。元気な顔を見ることが出来ただけで十分さ。では、また。」
慶一はそう言ってまだ青藍たちと話したそうな貴族の面々を連れて行ったのだった。


『・・・・・・はぁ。疲れた。慶一殿がああいってくれて助かったよ。』
彼らが出ていくと、青藍は脱力したように椅子に座りこんだ。
「そうですね・・・。突然やってくるから質が悪い。」
橙晴もまた疲れた様子である。


「兄様方、本当に猫被りですものね。あれで貴公子だ何だと騒がれるのですから、顔がいいというのは本当に得だわ。あれを見せられても素知らぬ顔で仕事を続ける隊士たちは流石ね。兄様方の「教育」が余程しっかりと行き届いているのね。」
『あはは・・・。燿さんもお待たせしてすみませんでした。』
青藍はそう言って苦笑する。


「いや、いいさ。驚いたけれどね。」
燿もまた苦笑を返す。
「これ、今週分のお茶菓子。新作もあるからよかったら感想を聞かせてくれ。それから、茶羅と一緒に作ったシュークリームがあるんだ。青藍君たちもどうぞ。」
燿は微笑みながら青藍と橙晴にシュークリームを差し出す。


『「ありがとうございます。」』
二人は嬉しげにそれを受け取った。
うきうきとした様子でそれを口に運ぶ。
そんな二人を燿は微笑ましげに見つめた。


『・・・あぁ、美味しい。』
「疲れたときには甘いものですよね。」
『うんうん。』
二人は幸せそうにそれを頬張る。
「それは良かった。」
燿はそう言って笑みを向ける。


『いつもありがとうございます。茶羅もお世話になっているようで。・・・邪魔はしていませんか?』
「まさか。覚えが早いから、俺はその内先生の座を奪われそうだよ。」
「そんなことはありませんわ。今日だって、結局私のシュー生地は膨らまなかったもの。」
茶羅は納得がいかないようだ。


「ふふ。でもカスタードはいい塩梅だ。とても美味しかったよ。青藍君も橙晴君もこんなにおいしそうに食べている。」
『うん。とっても美味しいよ、茶羅。』
「流石茶羅だね。もう一つ、頂戴?」


「もうないわよ。」
「嘘。その袖の中に仕舞ってあるでしょ。父上にあげるのだろうけど、どうせ父上は一口しか食べないからね。勿体ないから僕が食べてあげるよ。」
「・・・橙晴、たまに犬並みの嗅覚を発揮するわよね。」
茶羅は呆れながらも袖から箱を取り出して橙晴に渡す。


『橙晴、父上に見つかったら恨まれるよ。』
「秘密にしておいてくださいね、兄様。」
『どうしようかなぁ。』
言いながら青藍はもの欲しそうに橙晴の手の中にあるシュークリームを見つめる。


「・・・半分あげるので、秘密です。」
橙晴は渋々半分にして、青藍に差し出した。
『やったね。』
青藍はそれを受け取って嬉々として食べ始める。


「青藍兄様、大人気ないわ・・・。」
「ふふ。それだけ美味しいってことじゃないかな。青藍君、美味しい物しか食べないから。」
「それはそうだけれど、これじゃ、どっちが兄だか解らないわね。」
「あはは。仲良しでいいじゃないか。」

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